「日本でもできる!英国の間取り」山田佳世子著
英国人にとって家は、「建てられた日から『その地にあるもの』となり、そもそも建て替えるという発想がない」そうだ。ゆえにさまざまな時代に建てられた家が、時々の住人によってその時代に合うようにメンテナンスが施され、受け継がれてきた。
その外観の美しさと、歳月を重ねたがゆえに放つ存在感に魅了された著者は、渡英を繰り返し、これまでに約70軒もの個人宅にホームステイをしてきたという。英国人は、ライフスタイルの変化によって家を買い替え、一生のうちに5、6軒の住居に住む。本書では、これまで訪ねてきた英国人の家の中からさまざまな時代の家を案内してくれるビジュアルブック。
英国では、粘土や石など、その地域でとれる材料を用いて家を建てることが多いので、どの地域の家か建物を見ただけで分かる。また一般住宅として今も使われるもっとも古い様式の約500年前のチューダー様式から新築まで、各時代の建築が混在している。そんな地域や時代による特色など、まずは英国の住居の基本を解説。その上で、これまで訪ねたさまざまな家の外観から間取り、そして各部の詳細まで自ら描いたイラストで紹介する。
初めてホームステイしたグレートモーバンにあるヘザーさんの家は、1846年竣工のビクトリアン様式の「デタッチドハウス」(一軒家)。1997年の購入時、メンテナンス状態が悪く5年間も売れ残りが続いていたため安くなっており、DIYが趣味のご主人には格好の物件だったという。
3人の子供たちが進学などで家を離れると、ヘザーさんはホームステイ客の受け入れや、事情のある子供を一時的に預かる活動のために部屋を提供して、住人構成は常に変化をしている。
さらにかつては使用人の家事場だった地下の一部を賃貸に回すなど、生活に沿って変化してきた家の間取りの移り変わりを振り返る。
同じくグレート・モーバンのスーさんの家は、1624年竣工のエリザベサン・ジャコビアン様式のかやぶき屋根のコテージ。外壁の漆喰塗装などはスーさんが自らメンテナンスをしているという。バックガーデンは、見渡せぬほどのうっそうとした森で、家が建った当時の家主は領主が狩りに使う犬を管理する役目を担っていたとのことで、現在でもコテージは「クランバースパニエルの家」という名前がついている。家に誇りを持つスーさんも同じ犬種を飼っている。
そのほか、定年退職した元教師のリチャードが隅々にまで自らの美意識を凝らしたエドワーディアン様式のデタッチドハウスをはじめ、カナル(運河)で使われていた「ナローボート」や、かつて馬小屋だった「ミューズハウス」(都心では高級物件)、さらに中世の荘園の領主の館である「マナーハウス」など。さまざまなタイプの家と、各住人たちの家に対する思いや価値観を紹介する。
英国文化の神髄に触れられるおすすめ本。
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