「浅田撮影局まんねん」浅田政志著
木村伊兵衛写真賞に輝き、今秋話題の映画「浅田家!」の原案にもなった写真集などで知られる著者の最新作。
三重県津市で父親から受け継いだ写真スタジオを営む著者夫婦に、2014年、(3代目になるかもしれない)待望の跡取り息子が生まれた。
先代の時代の新生児の記念写真といえば、ゆりかごに乗せた男の子には青、女の子には赤の着物をかけて白い前掛けをかけて撮るというのが定番だった。そして現代はニューボーンフォトに始まり、100日写真やハーフバースデーなどの記念日も多く、洋風テイストからシックなイメージまで多様な設定で撮影されている。
妻のお腹の中にいるときから我が子をどのように撮るかで頭がいっぱいだったという著者は、考えた末に、何か新しい試みをもって我が子と向き合おうと決め、特注の畳を舞台にして日本の縁起物と息子との共演を試みる。さらに、縁起の良さそうな人に抱っこしてもらったり、縁起の良さそうな場所に出向いて息子を撮影してきた。
本書は、そうして撮影された息子・朝日君の誕生から4歳までの成長の記録だ。
2014年4月27日、午後6時59分、3334グラムで誕生した朝日君の生まれたての「生写真」に始まり、午年生まれにちなんで馬が描かれた名前入りの特製の敷物の上で眠りながら放尿する「ヌード」や、浅草のほおずき市で出店の粋な主人や、名前にちなんだ「朝日神社」の宮司さんに抱っこされたり、ご神木と思われる巨木の根元に抱かれてなど、さまざまな場所で記念撮影。
子は福をもたらすといわれるが、朝日君を抱く大人たちも、生まれたての赤ん坊をおっかなびっくり抱きながら、どこかその顔は優しさに満ち足りている。
記念撮影は、浅田家からの幸せのおすそ分けでもあるようだ。
あるときは祭り装束のキツネやてんぐ、あるときはちょい悪(に見える)ライダーに、そして老人ホームのご長寿(表紙)に抱っこされ、朝日君はご機嫌なときもあるが、人見知りが始まったのか、見知らぬ人に抱っこされて大泣きしている姿もちらほら。
縁起の場所を求めてなのか、もしくは家族旅行のついでなのか、益子焼の大タヌキの前で遠足の園児たちの記念写真に紛れ込んでみたかと思えば、牛久大仏とツーショット、そして水戸の偕楽園で梅大使に抱かれてみたりと、地元を飛び出し、さまざまな場所で撮影された写真を見ていると、浅田家の親戚のひとりとして、朝日君の成長を見守っているかのような気分になってくる。
見知らぬ人に我が子を抱いてもらうという、かつては当たり前だった行為が、子は社会の宝であり、子育ては社会全体でという現代人が忘れてしまった美徳を思い出させてくれる。
巻末には、付録のように先代をモデルにして遺影写真についてさまざまな提案。人生の両極端が凝縮した「記念写真」集だ。
(青幻舎 2600円+税)