「村上春樹の動物誌」小山鉄郎著
「ねじまき鳥クロニクル」や「カンガルー日和」などの書名をはじめ、作中にも多くの動物が登場する村上作品。それぞれの動物から作品を読み解いていく文芸評論。
まずは作家自身が「小説家としての実質的な出発点」と語る初期代表作「羊をめぐる冒険」の「羊」とは何かを考える。小説は、背中に星印を持つ羊を探し、北海道まで旅する主人公を描く。その中で、羊は幕末まで日本にいなかったが、日露戦争が迫る中、防寒用羊毛を自給するために飼育拡大されたと紹介される。そして第2次世界大戦後に羊は見捨てられる。つまり「羊をめぐる冒険」とは、「日本近代をめぐる冒険」ということなのだと著者は指摘する。
その他、象や蛍、猫など、動物を手掛かりに村上ワールドに分け入る。
(早稲田大学出版部 900円+税)