堂場瞬一氏「鷹の系譜」連載直前インタビュー

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 これまで人間くさい刑事など人物描写が魅力的な警察小説を多く手掛けた名手・堂場瞬一氏による警察小説「鷹の系譜」がいよいよ来週5日(月)から日刊ゲンダイで始まる。今作「鷹の系譜」は、堂場氏の人気3部作「焦土の刑事」「動乱の刑事」「沃野の刑事」の流れを継ぐ、昭和と平成の境目を舞台にした小説だ。警察大河小説の第2幕にして、バブルの始まりを予感させる事件を描く今作。意気込みを聞いた。

 舞台は1989年。昭和から平成へと時代が変わるその日、都内で30代の男の遺体が発見される。鉄パイプでめった打ちという一見、内ゲバの様相だったが所轄では路上強盗と判断。特捜本部が立ち、捜査一課の刑事・高峰拓男は捜査をスタートさせる。一方、公安一課の刑事・海老沢利光は、天皇崩御を機にしたゲリラ事件を警戒し、2日前から一課に泊まり込んでいた――。

 この高峰と海老沢の名にピンときた堂場ファンも少なくないだろう。

「戦後から大阪万博があった70年までの昭和の警察を舞台に描いた『焦土の刑事』を第1作とする3部作があるんですが、そのときの主人公が高峰靖夫と海老沢六郎。つまり、今作の高峰と海老沢の2人は彼らの息子なんですよ。3部作を描いたときから次の舞台は昭和と平成のはざまで、主人公は子ども世代にバトンタッチしようと考えていました。ちなみに高峰と海老沢は大学の同級生という設定ですが、息子たちは互いの父親同士の確執は知りません」

 先の昭和3部作では、公安と刑事の対立を軸に人間ドラマが描かれた。今作では時代の変化の中の警察を描くことになるだろう、と著者は言う。

「警察の役割や意味合いというのも時代によって変わっていくものだと思うんですね。事件が起これば捜査をするという刑事警察はさほど変わらないだろうけど、公安のほうは大きいでしょうね。戦前の特高が公安に引き継がれていて、あるときは体制を守り、あるときは犯罪を捜査するという役割がある。だけど、下手をするとどこを向いて仕事しているのか分からない、というのはずっとあったと思うんです。しかし、それも時代によって変化するはずで、それも今作の柱の一つです」

 すぐに解決するかと思われた路上強盗事件は被害者の身元が特定されず、元号をまたぐことに。

 一体被害者はどこの誰なのか。やがて意外な事実が判明し、そこに潜む複雑な人間関係に、図らずも高峰、海老沢はそれぞれの立場で真相を追うことになる。

「小説の舞台である1989年当時は、バブルのはしりであると同時に極左の活動がしぼみつつあった対照的な時代。まだ若干、内ゲバの尻尾を残している時代でもありました。とはいえ、当時20代だった私はそんな話を耳にしても、実感はなかったですけどね。隣で普通に話をしている人が、実は全然別の世界につながっている……という点などは、今のネット犯罪と構図が似ているかもしれません。ただ内ゲバは対象が知っている人間だけど、ネット犯罪は無関係な人を叩く。昔より事情が複雑で分かりにくくなったなと感じます」

 高峰と海老沢は共に団塊世代だ。そして度々、2人の口にのぼる「極左」の中心にいるのもまた団塊世代である。

「主人公の2人は今の70歳くらいで、団塊世代としては若い方です。私が会社員時代には一緒に働いた上司であり、先輩たちですが、好きにやって何の責任も取らないで辞めていったという印象がありますね(笑い)。元スポーツ少年の海老沢、理屈っぽい高峰が、この世代に共通する性格的なものや影響で、どんなふうにこなれておかしくなってきたかも描いていきたいですね」

 ネットも携帯電話もまだ世に登場していない平成元年の風景は、一定の世代には懐かしく思い返すものがあるだろう。

「あの時代だからあり得た事件というテイストを楽しんでいただきたいですね。そして、なぜそうなったのかと考える一助になれば幸いです。主人公2人は、個人的な正義が組織の正義と合致しなくなったときにどちらを取るのかという状況に直面するでしょう。そのあたりの葛藤は時代が違っても世のサラリーマンと同じ。一緒に悩みつつ、楽しんでください」

▽どうば・しゅんいち 1963年、茨城県生まれ。2000年「8年」で第13回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。警察小説、スポーツ小説などさまざまな題材の小説を発表している。著書に「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズ、「焦土の刑事」「動乱の刑事」「沃野の刑事」など多数。2021年、作家デビュー20周年を迎え、出版社を横断したプロジェクトが進行中。

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