「なぜ妻は『手伝う』と怒るのか」佐光紀子氏

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 長引くステイホームを機に、積極的にあるいは渋々と家事・育児に関わるようになった夫たち。ところが妻にはダメ出しされてばかりで、本書のタイトルに思わずうなずいた人もいるのではないか。

「基本的に男性は、家事は妻がしてくれるものという意識があるんですね。でも、妻をラクにしてあげたいという気遣いから『手伝い』をするんですが、妻が普段やっているレベルには達さず、ダメ出しをくらう。家事には一定のきれいの基準や手順があるんですが、夫はそれを分からずに“やった感”を出すと、妻はイラッとするんですね」

 本書は、男女共同参画セミナーなどを数多く主宰する、家事シェアの第一人者である著者によるスムーズな家事シェアのヒントを探った一冊。

 女性が陥っている家事に対する思い込みに焦点を当て、具体的な家事の分担ノウハウやコミュニケーションの押さえどころなど、改善のヒントを提示していく。

「そもそも女性が家事にうるさいのは、昔ながらの性的役割の呪いがあるからなんです。丁寧で配慮の行き届いた家事が家族に対する愛情の証しというもので、多くの妻はその思いに縛られています。さらに『自分が家をまわしていく。家の責任者』という意識もある。4人家族なら、さながら社員3人の中小企業の社長といったところで、社員が順調に暮らせているか、日々目配りを欠かしません。妻たちは夫は現金を持ってくる営業部長と思ってますよ(笑い)」

「全国家庭動向調査」(2018年)によると、妻の家事時間は夫の7倍という結果が出ている。また、妻の家事分担割合は7割強。夫婦で山登りをするときに、50キロの荷物のうち妻が35キロ分を、夫が15キロの荷物を持っているようなものだという。

 妻たちの本音は「荷物を減らしたい」。でも、「夫に渡したら手抜きと思われるのでは」との思いもあり、手放せないでいるのだ。ここに改善のヒントがある。

「“手伝う”というのはできる範囲でやるよという意味であり、丁稚の立場でいること。丁稚でいる限り親方(妻)に怒られるのは当然で、夫に平安は訪れません。妻をラクにし感謝されるのは、あるパートを責任をもって『やる』家事なんです。掃除でも皿洗いでも、何でもいい。尻込みするかもしれませんが、社会に出てそれなりの仕事をしている夫の能力が妻より劣っているわけがありません。それに、家事ができるようになっておくことは今や危機管理の基本。最近では夫が妻を介護するケースも増えており、家事に無関心ではいられない時代です。老後、ひとりになったときのためにも、ある程度の家事はできたほうがいい」

 親方(妻)―丁稚(夫)を脱却し、まずは先輩・後輩関係、やがては同僚を目指そうと本書。

「妻をイラッとさせるのは指示待ちや、最後まで遂行できないこと。会社で後輩がそうだったら困りませんか? ぜひ男性が得意とする仕事のスキルを家庭でも活用してください。いつまでに・求められる水準・コストなどを先輩(妻)に確認し、自分が責任者として継続してやっていく。私の知人男性は、ゴミ捨てを担当すると決め、ゴミ出しからゴミ袋のセットまで自主的にやるようになったら、奥さんに『私が何も言わなくてもやってくれる』と喜ばれ、日々機嫌が良いそうですよ」

 本書では、妻とうまくいく話し方も伝授。たとえば「どっちでもいい」ではなく、選択肢の中から選んで答える。予定外の買い物をするときは「刺し身買って帰ろうと思うけど、どうかな?」とラインを送る。一方、「~でいい」「まかせるよ」「~したら」「お疲れ」などは地雷ワード。妻はマウントを取られたように感じるので封印したい。

「家事はコミュニケーションの入り口。『こんな方法もあるよ』など会話がある家庭は円満で、夫も妻も機嫌よく過ごせると思います。ぜひ夫婦で読んでもらえたらうれしいですね」

(平凡社 946円)

▽さこう・のりこ 1961年、東京都生まれ。国際基督教大学卒業後、証券会社などで翻訳や調査に従事後、フリー翻訳者に。2002年「キッチンの材料でおそうじする ナチュラルクリーニング」を出版後、掃除講座や執筆活動を展開。著書に「もう『女の家事』はやめなさい」「『家事のしすぎ』が日本を滅ぼす」など多数。

【連載】著者インタビュー

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