自動車産業の行く手
「自動車新常態」中西孝樹著
新興勢力テスラに押されっぱなしの自動車産業界。コロナ禍の逆風も合わさった苦境は乗り切れるのか。
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コロナ禍でもトヨタが世界販売台数で5年ぶりにトップに返り咲きとのニュース。しかしこれは全体が大きく落ち込む中で相対的に減少が少なかったというだけの話だ。デジタル化への対応が業界を直撃し、時価総額でテスラにあっさり抜かれた現実は大きい。
本書は自動車産業の専門リサーチャーによるリアルな分析。「100年に一度の大変革」といわれるのはCASE。Cはコネクテッド=ネット接続、Aはオートノマス=自動化、Sはシェアリング&サービス、Eはエレクトリック=電動化。要するに車は人を乗せて勝手に走るスマホになるわけだ。
逆に米レンタカーの最大手だったハーツは、昨年5月にコロナ禍で外出制限のショックをまともに食らって経営破綻した。つまり、コロナ禍は自動車革命のダメ押しとなる。
著者はこのショックをリーマン・ショックと比べて冷静に分析。「コロナとの共生」を図る自動車業界ではディーラーもオンラインが増える一方、公共交通機関を嫌う客の需要を上手に取り込む必要がある。これまでのような大馬力の高級車かファミリーカーの二択ではなくなるのだ。
世界も同様だが中国だけは例外。個人保有への需要は衰えず、むしろカーシェアは劣勢。とはいえ新車販売まですべてオンラインとまではいかないらしい。ベテランならではの冷静な分析が光る。
(日本経済新聞出版 1870円)
「自動運転&MaaSビジネス参入ガイド」下山哲平著
CASEと並ぶ当節のバズワードがMaaS(マース)。
「モビリティー・アズ・ア・サービス」の略だが、その意味するところは「ネットを使って公共交通からカーシェアやライドシェアまでをシームレスにつなぐ」こと。自動車業界のほうが率先して「シェア」の時代に対応しようとしたのがMaaSなのだ。
著者はデジタルマーケティングのエキスパートだけに、「自動運転で小売業の何が変わるか」「ビジネス参入の具体的アイデア」など誰もが知りたい事柄を見開きごとにサクサクと解説してくれる。
(翔泳社 2420円)
「間違いだらけのクルマ選び 2021年版」島下泰久著
かつてバブル突入以前の日本で大ヒットした故・徳大寺有恒の辛口カーガイドの最新版。徳大寺さんは2014年に亡くなったが、晩年の数年間、共著者として「間違いだらけ――」の著者として名を連ねていたのが本書の著者。むかしのテイストを残しながら、ほどほどだろう……と思ったら大間違い。
たとえば今年度でF1撤退を発表したホンダに対して、発表された撤退理由は意味不明と断じる。「ニューノーマル」へ向かう産業の、消費者目線の最前線のリポートだ。
(草思社 1650円)