「菅政権 東大話法とやってる感政治」宇佐美典也著/星海社新書
東大経由経産省キャリア官僚から抜け出した著者による一冊。菅政権及び、日本のエラい人による「何言ってるんだよ、こいつ……」と呆れる一言がいかにして生まれ、それがどうして現在の政治でまかり通っているのかを読み解く。
国会答弁や記者会見等でいつもモヤモヤする言葉を皆さんも感じているだろう。まえがきではこれらが列挙され、これを「東大話法」と呼ぶ。この言葉は東大の安冨歩教授が生み出したものだが、本書の筆者はこれを日本の政治にあてはめて分析する。以下はいずれも菅義偉首相の得意なセリフだ。
「そのような指摘は当たらない」
「仮定の話にはお答えできない」
「答える立場にない」
「個別の事案についてお答えすることは差し控えたいと思います」
私が特に嫌いなのは「仮定の……」と「個別の……」である。いや、仮定で聞いてるんだから答えろよ! と思うし、「全体じゃなければ答えられないってどういうことだ!」と思う。本書は菅氏の所信表明演説を含め、これまでの発言に込められた意図を読み込み分析するスタイルを取る。
これは! と思った一節を紹介する。内閣支持率に関する分析部分だ。
〈かつて第一次安倍政権や麻生政権は失言で内閣崩壊にまで追い込まれたわけだが、今やその時代は遠く「人柄が信頼できて」「実行力があれば」大抵のことは許される時代なのである。逆に言えば「人柄が信頼できなくて」「実行力がない」と見なされれば国民の支持は離れていく〉
本来、政策で政治家は評価されるべきなのに妙な評価軸が今は定着していることを筆者は指摘する。賛否両論を呼ぶ、しかし将来的には日本にとって有益な政策を過激な言葉で言うことはもはやはばかられる状態になっているのである。
菅政権全般の分析をしているが、本書の白眉は菅氏と同氏の「天敵」ともいえる東京新聞の望月衣塑子記者がなぜ噛み合わないかの分析だ。望月氏といえば、官房長官時代の菅氏に執拗に食いつき、菅氏が無表情でやり過ごすさまを覚えている方も多いだろう。
〈望月氏と菅氏は水と油のような存在である。それはお互いがそれぞれ自分を「国民の代表として政治を正す存在だ」と思っているからである〉
地方出身のたたき上げで庶民の代表だと思い込んでいる菅氏と「権力は悪でマスコミはその悪を暴く」という使命を持っている望月氏はどちらもトンチンカンであると指摘する。2人の噛み合わなさがこれで理解できた。 ★★半(選者・中川淳一郎)