「本日はどうされました?」加藤元著
20年ほど前、保険金目当ての連続殺人事件で九州の女性看護師4人が逮捕された。「白衣の天使」と称えられることの多い看護師だけに、この事件は大きな話題を呼んだ。最近は男性の看護師も増えているが、基本的に看護師の世界は女性社会で、特有の人間関係があるのも事実。本書は、ある病院での連続不審死事件を発端に、女性看護師たちの激しい確執を鋭く描いている。
【あらすじ】E病院では、入院患者の老人2人が相次いで亡くなった。どちらも直前まで確たる兆候がなく突然の死だったので、もしかするとこの死は何者かによる意図的なものではなかったのかという噂が立った。
そこで犯人として浮かび上がってきたのが、2人の死後にE病院を退職した真中祐実という看護師だ。この噂を聞きつけたフリーの雑誌記者は、独自に調査を進めるべく関係者たちに取材を進めていく。そこから明らかになる真中の人物像は、不器用で人とのコミュニケーションが苦手、頑固で人の言うことを聞かない厄介者、というものだった。おまけに彼女の周辺では、ロッカーでの連続盗難や飲み物への異物混入といった事件が起きており、それも真中の仕業であると名指す同僚も複数いた。
その一方で、おとなしくて親切な真中がそんなことをするはずがないと擁護する者もいる。記者は真中を含む10人の女性に聞き込みを続けていくが、聞いていくうちに彼女らの供述にある違和感を覚えていく。本当に真中祐実が犯人なのだろうか……。
【読みどころ】真中看護師を巡る彼女らの証言はまさに「藪の中」状態。虚と実が複雑に絡み合いながら、看護師という女性社会における壮絶な心理劇が展開されていく。(集英社 748円)
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