「武漢病毒襲来」廖亦武著、福島香織訳
2020年1月23日、当局が武漢市をロックダウンしたその日、留学先のベルリンから帰国した歴史学者の艾丁は、北京空港に到着。武漢に帰るつもりだったが、妻に反対され、ひとまず彼女の実家がある長沙に向かう。長沙への機内で隣席の夫婦に問われ、艾丁が湖北人だと答えると、乗客たちはパニックに。感染者扱いされ、トイレに隔離されてしまう。ホテルでの隔離生活を終え、ようやく妻の実家にたどりついた艾丁は、妻からの電話で、武漢では死者が多数出て、遺体の回収が追い付かず、運搬車からあふれていると聞く。
翌日には湖北籍という理由だけで水道が止められ、現れた防疫指揮部によって外からチェーンがかけられ、家の中に強制隔離されてしまう。それでも艾丁は、あらゆる手段を使って武漢を目指す。
一方、感染源を突き止めるため武漢に侵入し、ウイルス研究所のP4実験室を探るネットジャーナリスト「キックリス」は国家安全局に追われる様子をネット中継する。
亡命中国人作家が隠蔽された中国のコロナ禍のリアルを描いた実録小説。
(文藝春秋 2035円)