選挙の惨状を風刺した傑作コメディー
「スイング・ステート」
世界中で政治の劣化が絶えない。どこかの国では首相が2代続けて“政権投げ出し”に走る始末だが、「デモクラシーの本家」を自任するアメリカだって「アフガン撤退失敗」の大報道の陰で、地方自治体の選挙法改悪をもくろむ右派の動きが止まらない。現代の普通選挙は約100年前、20世紀という「大衆の世紀」を迎えて始まったが、いまやSNSとポピュリズムの挟み撃ちで制度疲労の極に達しているのである。
そんな選挙の惨状に風刺のうっちゃりを食らわせた傑作コメディーが今週末封切りの「スイング・ステート」だ。
題名は振り子のように右に左に民意がスイングする「激戦州」のこと。トランプの出現で手痛い敗北を喫した民主党系の選挙コンサルタントが、起死回生を狙って中西部の農村に乗りこむ。村のタウンミーティングで怒りの声を上げた退役軍人のSNS動画をたまたま目にし、しがない町長選挙を全米の話題にしようと思いついたのだ。
そこへすかさず共和党の女性コンサルタントも登場。双方が資金や人手をつぎこむ騒ぎとなる。この女がトランプの選対本部にいたメンドリみたいなケリーアン・コンウェイに似て笑わせるが、何といっても秀逸は主人公役のスティーブ・カレルと監督のジョン・スチュワートだろう。
実はスチュワート自身もコメディアンで、政治番組のスタイルで政界ニュースを笑いのめすアメリカ型の風刺番組を定着させた。彼自身は既に番組を引退したが、社会運動や今回の映画製作などマイケル・ムーアとも一味違う活動家ぶりを見せているのだ。
アメリカの選挙の悪名高い不正についてはM・C・ミラー編著「不正選挙」(亜紀書房 2640円)が面白い。2008年のオバマ選挙で大勝したリベラル派の油断が不正改革の好機を逃したという指摘に、左派は耳が痛いはず。 <生井英考>