「オオカミ SPIRIT OF THE WILD」トッド・K・フラー著 竹田純子訳、幸島司郎・植田彩容子監修
順応性の高いオオカミは、かつては高緯度の北極圏から亜熱帯の砂漠まで、人間を例外とすれば世界で最も生息範囲の広い哺乳類だった。100万匹以上のオオカミが地球上のいたるところを我が物顔で歩いていたという。
しかし、現在では絶滅を危惧される保護の対象となり、人里離れた辺鄙な場所か特定の保護区や国立公園などでしかその姿を見ることはできない。
人間は、オオカミを家畜を襲う悪賢い獣として忌み嫌う一方で、霊的な動物だと信じ、時には信仰の対象とし、神話や伝説、民話にもよく登場する。なぜ人間は、これほどまでにオオカミに心を奪われてきたのか。野生のオオカミたちの迫力ある写真とともにその生態を紹介する豪華ビジュアルブック。
人間がまだ狩猟採集生活をおくっていた頃、優れたハンターであるオオカミは強い憧れの対象であり、家族や一族のトーテム(精神的よりどころ)としてあがめることも多かったという。
ローマ神話では、オオカミに育てられた双子の男の子がローマを建設したと伝える。また中世にはオオカミには魔力があると信じられていた。
しかし、キリスト教が広まると、人間が自然界の主人であるという考えが生まれ、聖書ではオオカミが貪欲、悪行、狡猾、不実のシンボルとして描写され、邪悪で不吉な存在とみなされるようになってしまった。
まずは、こうした人間との関係を振り返る文化史と、生物学的な起源に迫る自然史をひもといていく。
その上で、オオカミは肉食動物の中でも特に移動に適応した種で、1日に50キロを超える長距離移動も可能などといったその身体的特徴を詳述。
そうした解説の合間に、狩りをする姿や、雪原をものともせずに疾駆する姿(写真①)、群れや子供(写真②)、そしてグレーや白、黒など、さまざまな体色の個体など、多くのオオカミの写真が並ぶ。
そのりりしくも、美しい野生の姿は確かに神聖でさえある(写真③)。
その美しさもさることながら、人間がオオカミに魅せられるのは、何よりもその社会的行動だろう。
オオカミは家族単位で生活し、親だけでなく、時には年長の兄弟姉妹も加わり、生まれた子の世話をする。
親以外のオオカミが子育てを手伝うのは、それが一家の存続につながるからで、子供の世話をすることが家族のきずなを深める。
昔からオオカミ社会の序列については多くが語られてきた。群れの中で最も大きく、最も強い繁殖固体であるオスのアルファが、群れを率い、その存続の責任を一手に引き受けており、群れ内では順位を巡りたえず小競り合いが行われていると考えられてきた。
しかし、現在では群れの実態を単純化した説だということが分かっているそうだ。
群れに優劣関係は存在するが、それはおもに家族の関係が自然に表れたもので、順位はほぼ年齢によって決まり、意思や力の強さだけで決まるものではないという。
そうした最新の情報に触れながら眺めていると、オオカミの群れの一員になった気分になってくる。
(化学同人 3080円)