「美しい自然の色図鑑」 パトリック・バティ編 石井博/宮脇律郎監修 石田亜矢子訳
さまざまな分野で用いられる色彩の見本「カラーチャート」の歴史は、1774年、鉱物鑑定のための分類体系を考案したドイツの地質学者アブラハム・ゴットロープ・ヴェルナーによってはじまる。氏は、鉱物鑑定のために、54色に命名規則(名前のつけ方の法則)を設け、その色見本となる鉱物を収集整理。その命名規則はその後、40年以上かけて改定されながら教え子らに引き継がれた。
それを研究に用いた後継者らも独自に加筆。1814年には、スコットランドの美術家パトリック・サイムがヴェルナーの色を基準化するという構想と色彩用語のスタイルを108色へ発展させる(後にさらに110色へ拡張)。
サイムが鉱物をベースとするヴェルナーの分類に加えたのは動植物の世界に見られる色で、彼は絵の具で彩色した小さな色見本をつけた本を出版。
その本「ヴェルナーの色の命名法」では、110色の色名が、色見本とともにその色に関連する動物・植物・鉱石の情報が添えられている。
本書は、そのサイムの本に記された記述をもとに、動物や植物、鉱物を描いた当時の博物画を紹介しながら、その全110色を解説するとともに、ヴェルナーにはじまるカラーチャートの歴史をたどる大判図鑑。
例えば、「白」には、もっとも純粋で何も混ざっておらず、新雪のような「スノーホワイト」から、そのスノーホワイトにほんの少しベルリンブルーとアッシュグレーが混ざった「スキムミルクホワイト」など、ヴェルナーが命名した色に加え、サイムが考案した「紫がかった白」(スノーホワイトにクリムソンとベルリンブルーのかすかな色みと、ほんの少量のアッシュグレーが入る)や「橙がかった白」(スノーホワイトにごく少量のタイルレッドと雄黄、少量のアッシュグレーが入っている)など8色がある。
そして、スノーホワイトには「ユリカモメの胸」(動物)と「マツユキソウ」(植物)、「カララ大理石と石灰華」(鉱物)、「スキムミルクホワイト」には「人間の白目」(動物)、「ミスミソウの花弁の裏側」(植物)、「コモンオパール」(鉱物)が例として挙げられる。
さらに「ユリカモメの胸」なら、1832~37年に刊行された「ヨーロッパ鳥類図譜」(ジョン・グールド)に掲載されているユリカモメの図という具合にそれぞれの色のたとえに登場する当時の博物画が並べられる。
白にはじまり、灰色・黒・青・紫・緑・黄・橙色・赤・茶色から派生する全110種の色名を、なんと1000点もの博物画とともに紹介。
「茶色がかった黒」は、「ウミガラス、クロライチョウの雨覆羽」、「スコッチブルー」は「紫のアネモネのおしべ」、「サップグリーン」は「クモマツマキチョウの後翅の裏側」などのマニアックな例えを楽しみながら精密な博物画を眺めていると、時間が経つのを忘れてしまう。
(グラフィック社 3300円)