「人類が滅ぼした動物の図鑑」ラデク・マリー著、的場知之訳、長谷川政美監修
先ごろ、中国当局は生息数が順調に増えているジャイアントパンダを「絶滅危惧種」から「危急種」に指定を変更したという。
しかし、国家的に手厚い保護下にあるジャイアントパンダは例外で、現代は6度目の大量絶滅と表現されるほど、多くの動物がこの地球上から姿を消しつつある。
本書は、人間の存在が一因で絶滅した動物たちを集めたちょっと切ないイラスト図鑑。
巻頭で紹介されるのは、恐竜と並び先史時代の動物の中でもっともよく知られるマンモスだ。われわれの祖先たちがマンモスを狩っていたことは周知の事実だが、その狩りが絶滅の原因かどうかは研究者の間でも意見が分かれ、論争が続いている。
マンモスの個体群のほとんどは約1万年前に姿を消したが、北極海のウランゲリ島やアラスカのセントポール島には紀元前2000年まで生息していたそうだ。
2017年に提唱された最新の仮説では、マンモスは最終的に有害な遺伝的変異の蓄積によって絶滅したとされる。しかし、著者は直接の原因が何であれ、先史人類がマンモスの生活を苦しくしたのは間違いないと指摘。なぜならウランゲリ島で生き延びていた最後のマンモスがヒトの到達と同時に絶滅したからだ。
以後、ニュージーランドに入植した先住民によって1500年ごろに絶滅した身の丈3.5メートル、体重250キロという地球の歴史上もっとも大きな鳥「ジャイアントモア」をはじめ、かつてはヨーロッパからアジアまで分布していたが過剰狩猟によって1627年に絶滅した現在の家畜ウシの祖先「オーロックス」、人が持ち込んだ非在来哺乳類によって1662年ごろに絶滅したモーリシャスの「ドードー」(表紙)、かつて北太平洋に広く分布していたが通行する船に食料源として狙われ、発見からわずか27年後の1768年に絶滅した巨大な海生哺乳類「ステラーカイギュウ」など。41種類の動物を、彼らが生きていた頃の生息環境とともに描き出す。
それぞれの絶滅に至る物語も詳細に記されており、詩人でもある著者の解説は、まるで死に絶えた動物たちへの「弔辞」のようだと訳者はいう。
動物たちは、地球から姿を消した年代順に登場するが、2007年、工業化によって絶滅に追い込まれたとみられる中国の最大の河川・長江に生息していた「ヨウスコウカワイルカ」につづいて、最後に取り上げられるのは紀元前2万2000年前に絶滅したネアンデルタール人だ。
現生人類が持ち込んだ伝染病や寄生虫、食料資源の独占、さらに両者の直接的な戦闘など、彼らの絶滅にもヒトが何らかの形で関与したことは間違いない。しかし、はるか以前に絶滅したネアンデルタール人をあえて巻末においたのはなぜか。
現代のわたしたちはネアンデルタール人の遺伝子を2%保有しているという。
これはこのままの傲慢な振る舞いを続けていたら、自身も自身の行いによって絶滅するという暗示であろうか。
(丸善出版 5280円)