「世界を動かす共感力 ニュージーランドアーダーン首相」マデリン・チャップマン著 西田佳子訳
37歳の女性が首相になり、ほどなく出産。しっかり産休をとる。パートナーとは事実婚。国連総会に乳児を同行し、演説中はパートナーがおしめを取り換える。
こんなこと、日本では想像もできない。でも、実際の話だ。ニュージーランドの首相ジャシンダ・アーダーンは、世界で初めてをいくつもやってのけて、新しいリーダー像を示した。コロナ対応時には、国民に寄り添う発信力の持ち主として日本でもよく知られる存在になった。
アーダーンは1980年、ニュージーランド北島のハミルトンで生まれた。父親は警察官で、姉が1人いる。成績が良く、学校の規則を変革するために積極的に行動するような、ちょっと「ダサい」タイプだったが、フレンドリーで人をひきつける魅力があった。やがて政治家を志し、最年少で労働党の国会議員になった。若い政治家として若者の代弁者になるつもりだった。
党首にも首相にもなりたくなかったのに、政治情勢の変化が、有能で人気のあるアーダーンの出世を促すことになる。補欠選挙に出て副党首になり、その後党首に、ついには首相になってしまう。大規模な記者会見で、自分の言葉で堂々と語り、リーダーシップと存在感を高めていった。悲壮にならずに仕事とママを両立する首相の姿は、働く女性のニューノーマルを示した。
2019年、クライストチャーチのモスクで銃乱射事件が起こり、51人が犠牲になったとき、首相は事件の翌朝に銃規制法改正を宣言、6日後には実現させ、犠牲者にはさまざまな補償を行った。人の痛みに共感する優しさと迅速な実行力。国民はこんなリーダーを待ち望んでいた。
「政治はおじさんやおじいさんのゲーム」という世間の認識と諦めを、アーダーンは見事に打ち破った。リーダー次第で政治は変わる。日本にもアーダーンのようなリーダーが現れてくれないものか。
(集英社インターナショナル 2200円)