「グローバリゼーション」伊豫谷登士翁著
モノやカネ、人が国境を越えて移動することを「グローバリゼーション」と呼ぶとすれば、コロナ禍はグローバリゼーションとは相反する日々だ。そこで本書では、移動の制限でこれまでの生活様式や価値観までも変化させられている今だからこそ、あえて移動をキーワードに社会課題の分析を試みている。
例えば、欧米を中心に世界の大きな課題となっている移民問題。多くの移民が流入することで雇用が奪われることなどが懸念され、ポピュリズムの台頭にもつながってきた。SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」の中では、移民に関して「税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大を漸進的に達成する」などのターゲットが設定されている。
一方で日本では戦後、移民はまともな政治課題として取り上げられることはほとんどなく、政治の陰に押しやられてきた。これは戦後の国家再編の過程で、移民を論じることが忌避されてきたからであるという。実際、戦前まで日本は移民国家だった。多くの日本人が海外で生活し、また朝鮮半島をはじめとして植民地からの多くの人々が日本で生活していた。しかし敗戦後、戦時から平時へと回帰させ国民国家の再建を促進させるため、「非移民国」という政治的宣伝がなされ、今に至っていると著者。
現在の日本では、少子高齢化の中で経済成長を維持するには移民の存在が重要であることが認識される一方、歴史的な政策側の意図により、その流入による不安や恐怖が喧伝され、矛盾を抱え込まざるを得なくなっている。移民に対する法的な制度を整え、政治の場でオープンな議論が展開されることが急務だと本書は指摘している。
(筑摩書房 1012円)