「古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで」柿沼陽平著/中公新書
「三国志」や「項羽と劉邦」の時代について、多くの人は小説や漫画、ゲームで知っているだろうが、そこで描かれるものは基本的には「戦争」や「戦略」にまつわるものであり、人々の生活はよく分からない。農民が義兵を募る看板を見て兵士になろうと決意したり、知識人が居酒屋に集い議論を交わす様子などは描かれるが、実際に当時の人々がどのような暮らしをしていたのかまでは分からない。
本書は、こうした市井の人々が起きてから寝るまでを解説している。どのように著者はこの本を書きあげたかといえば、以下の説明がある。
〈しかし幸か不幸か、中国古代史の史料はそれほど多くなく、主要なものはせいぜい一五〇〇万字程度である。それは本書一〇〇冊ぶんくらいの漢文であり、逐次的な精読はムリにしても、まともな研究者なら一〇年間もかければ読みとおせる量である〉
いや、そうはいってもかなり多いが、著者はつぶさにこれらの資料を基に秦と漢の時代の人々の生活を本書で再現してくれたのである。おかげで、三国志や項羽と劉邦関連の作品を読むときに、その背景をより楽しめるようになった。私はコーエーテクモゲームスのニンテンドー3DS「三國志」を毎日やっているが、さらに楽しくなった。
作品では皇帝はただ玉座に座っているだけのように描かれているが、実際はさまざまな決裁をする必要があり、相当忙しかったことがうかがえる。そして、本書の中身とはあまり関係ないが、特筆すべきは著者のざっくばらんな文体である。これらには思わず笑ってしまった。
〈王莽はハゲで、それを隠すために幘に改良を加え、頭頂部に覆いを着けてハゲを隠した。つまり後漢時代の幘はほとんど帽子のようなものであり、頭頂部に覆いのない従来の幘は未成年用に特化していった〉
筆者の文体は一般的な歴史の専門家的ではなく、ズケズケと分かりやすい表現をし、私のような悪口が好きな人間は大好きである。
かくして、当時の食事や恋愛事情、はたまた人々の口臭がひどかったなど、秦・漢の時代の人々の生活を描き切った。中国の歴史好きの人にとっては、あまたの作品を堪能するにあたり、有用なガイドとなるだろう。 ★★半(選者・中川淳一郎)