スパイのテクニック
「イギリス諜報機関の元スパイが教える 最強の知的武装術」デビッド・オマンド著 月沢李歌子訳
ロシアのウクライナ侵攻で一気に世界は20世紀の冷戦時代に逆戻り!? おかげで昔ながらのスパイ術も復活か。
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英国諜報機関といえば有名なのはMI6。しかし著者はケンブリッジ大を卒業後、まず英政府の通信本部(GCHQ)に就職し、国防省などを経て情報・防衛・外交・安全保障にまたがる最高レベルのインテリジェンスの専門家として長年活躍した。つまり相手の歓心をどう買うかといった対人的なミクロの人間関係技術ではなく、大戦略をあつかうマクロな視点をどう身につけるか、その極意が本書のテーマというわけだ。特に注意しなければならないのは先入観や思い込みにとらわれる「認知バイアス」。また冷静さを失うと妄想にとりつかれたり、陰謀論を信じ込んだりする強迫観念のとりことなる。たとえば1960年代に英労働党から選出されたウィルソン首相は政府の諜報機関が自分に敵対すると信じ、一方、諜報機関内の小グループも自分たちの上司が陰謀に加担していると考えていたという。これを著者は「陰謀論のループ」だという。これにハマると抜けられなくなるのだ。いまロシア軍を信じられなくなったプーチンなど、まさにこのケースの犠牲者なのではないだろうか。
(ダイヤモンド社 1980円)
「最高の敵」ガス・ルッソ、エリック・デゼンホール著 熊谷千寿訳
スパイといえば敵味方に分かれての心理的駆け引きがつきもの。特に20世紀の冷戦時代には、米ソ対立のもとでベテランのスパイ同士がしのぎを削り、またときには自分の国家を裏切って内通したりしていた。本書はそんなスパイ同士の「大胆不敵な友情」を描くノンフィクション。
大酒飲みで規則破りのCIAジャック・“カウボーイ”・プラットと抜群の運動能力を持ったKGBのゲンナジー・ワシレンコ。どちらも大酒飲みで、依存症の気味があるのはスパイにつきものらしい。また「人たらし」の素質や組織内の異端児であることも共通した。特にシベリア育ちで子どものころから銃とウオッカに親しんできたゲンナジーは007映画に出てくるロシアの敵役とは裏腹だった。彼らはともに相手を内通に誘うために接触したが、やがて不思議にウマが合ったことから半世紀近くも関わり続け、やがてその関係は世界を揺るがす二重スパイ事件にまで発展したのだ。
著者はマフィアの犯罪王国を追ったジャーナリストと、元ホワイトハウス広報部の危機管理コンサルタントという異色の組み合わせ。
(ハーパーコリンズ・ジャパン 3080円)
「元FBI捜査官が教える 『情報を引き出す』方法」ジャック・シェーファーほか著、栗木さつき訳
「連邦警察」の米FBI。実は米国内の敵スパイのあぶり出しも任務だった。本書は元FBI特別捜査官が容疑者や目撃者、スパイからどうやって情報を聞き出すか、その秘訣を語る。
参考にしたのは心理学や行動科学。「ウソを見抜く」より「事実を引き出す」ことが目的だ。かつてドイツ空軍の尋問官だったシャルフも、拷問を好んだゲシュタポと違って、捕虜と自由に雑談しながらわざと誤解を口にして「相手に訂正させる」という高級テクニックを駆使したという。無知なふりをしたり、相手を「持ち上げ」たりするのも同じ。
厳しい態度と柔らかな姿勢を織り交ぜたり、わざと言いかけてやめたりなど、細かなテクニックが豊富に紹介されている。
(東洋経済新報社 1760円)