フェイクニュースにだまされない

公開日: 更新日:

「フェイクニュースの生態系」藤代裕之編著

 自分に都合の悪い話はすべて「フェイクニュース」と唾棄したトランプ前米大統領。その偽りに対抗するには。



「偽ニュース」と訳される「フェイクニュース」だが、その真の意味は「本物のニュースを装っている」偽情報ということだ。

 本書は新聞記者からメディア研究者になった著者とそのグループによる総合的なフェイクニュース論。

 もっともらしい偽りということなら昔からある。しかし今ほど素早く効率的に偽りを拡散させるSNSのようなテクノロジーが存在した時代は、かつてなかった。

 つまりネットの発達で情報世界は今や、真実と虚偽の見分けがつかない複雑な生態系と化してしまったわけだ。その生態系がフェイク情報で汚染されたのが現代だが、その責任はネットメディアだけにあるわけではない。

 たとえば一昨年3月、コロナ禍が始まって間もなくトイレットペーパーが姿を消してパニックになったことがある。その際、フェイク情報を拡散させたのはツイッターなどSNSだったが、大本をたどると実は情報源はテレビだった。SNSでは拡散してない話をテレビが「拡散している」と伝えたことで「非実在型炎上」が起きたというのだ。

 本書は汚染状況を具体的に紹介し、最後に「新たなニュース生態系」の必要性を説いている。

(青弓社 1760円)

「アクティブ・メジャーズ 情報戦争の百年秘史」トマス・リッド著 松浦俊輔訳

 2016年の米大統領選でロシアがネットで選挙に介入したとの疑惑が高まったのはドナルド・トランプ当選後のこと。トランプがロシアに弱みを握られているらしいことは以前から知られていたから、疑惑はなおさら加速した。

 本書の著者はこの問題に関して上院の特別委員会にも招かれたジョンズ・ホプキンス大教授。しかし「私たちは偽情報の時代に生きている」という著者は、この状況が始まったのは昨日今日ではなく、100年前からだという。

 著者はその後の歩みを4つに分ける。不安が社会を覆った大恐慌時代が第1波。第2次大戦後の冷戦期が第2波。ベトナム戦争後の70年代に第3波。そして“第4波”下で、ネットの発達が従来の偽情報による誘導工作を一気にシロウトっぽくした。

 1世紀にわたる歩みが約500ページの大冊で明らかになる。

(作品社 4950円)

「生き抜くためのメディア読解」小林真大著

 国際機関の職員や外交官などの子弟が多くの国で通用する大学受験のための資格が「国際バカロレア」だ。本書はこの資格に対応した文学の授業をインターナショナルスクールで教える著者が、メディアリテラシー(読解法)の入門編を教えるというもの。

 日本の国語教育は小説や文学評論に偏ってきたが、著者は「メディア」という観点からニュース記事、演説文、企画書、評論文、ブログ記事、マニュアル、法律文など多様なジャンルの文章の特徴や注目点を解説。また広告コピーや女性誌の表紙、報道写真などにも話を広げ、そこにこめられたメッセージや作り手の意図の読み取り方を教える。

 本書はこの4月からの学習指導要領の変更に対応するための手引書だが、フェイクニュースを見破るためのヒント集としても読むことができるだろう。

(笠間書院 1980円)

【連載】本で読み解くNEWSの深層

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  2. 2

    フジテレビ「第三者委員会報告」に中居正広氏は戦々恐々か…相手女性との“同意の有無”は?

  3. 3

    大阪万博開幕まで2週間、パビリオン未完成で“見切り発車”へ…現場作業員が「絶対間に合わない」と断言

  4. 4

    兵庫県・斎藤元彦知事を追い詰めるTBS「報道特集」本気ジャーナリズムの真骨頂

  5. 5

    歌手・中孝介が銭湯で「やった」こと…不同意性行容疑で現行犯逮捕

  1. 6

    大友康平「HOUND DOG」45周年ライブで観客からヤジ! 同い年の仲良しサザン桑田佳祐と比較されがちなワケ

  2. 7

    冬ドラマを彩った女優たち…広瀬すず「別格の美しさ」、吉岡里帆「ほほ笑みの女優」、小芝風花「ジャポニズム女優」

  3. 8

    佐々木朗希の足を引っ張りかねない捕手問題…正妻スミスにはメジャー「ワーストクラス」の数字ずらり

  4. 9

    やなせたかし氏が「アンパンマン」で残した“遺産400億円”の行方

  5. 10

    別居から4年…宮沢りえが離婚発表「新たな気持ちで前進」