顔認証の時代
「顔認証の教科書」今岡仁著
いまやマスクをしていてもカメラで顔認証できてしまう時代。その成り立ちを知るには。
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コロナ禍で大きなマスクをしているのに体温も個体識別もしてしまう顔認証。そのパワーの源はAI(人工知能)だ。AIのすごさは膨大な数で対象を読み込み、ディープラーニング(深層学習)であっという間にパターンを認識し、応用してしまう能力にある。近ごろのAI翻訳など、わずか1、2年で驚異的な成長を見せているのがその例。本書はNECで長年、脳視覚情報処理の研究に携わってきた著者がAIによる顔認証をイロハから教える、文字通りの教科書だ。
たとえば空港でパスポートのICチップに登録された自分の顔と、入国審査の窓口に設置されたカメラで撮った写真を照合するのが「1対1認証」。建物の出入りなど多数の中からひとりを特定するのが「1対N認証」。この判断のとき、画像を画像のままで処理すると時間がかかりすぎるので、顔画像を数百から数千の「特徴量」と呼ばれる数値データに変換・抽出する「テンプレート生成」を行う。その後、現場で撮った画像と登録画像を特徴量の類似によって照合する。
このような顔認証技術の普及をうながしたのが9.11同時多発テロ後、危険人物の入国阻止を容易にする必要が生まれたことだという。やはり顔認証の本質は監視というわけだ。
(プレジデント社 1760円)
「AIでビジネスを変革する最強フレームワーク TRANSFORM」クリス・ダフィ著 夏目大訳
アドビといえば「アクロバット」など画像加工ソフトで有名なIT企業。
本書はそのアドビ社の戦略開発部門のシニアマネジャーが教える組織づくりのコツだが、実は本書は「エメ」というAIと著者の対話で書かれたという。
ユーザーと対話するコンピューターソフトは20年以上前からあるが、それはオウム返しに毛の生えた程度だった。しかし今は深層学習するAIと深い話ができるまでになったようだ。AIを武器にした組織づくりのコツを伝授する。
(ダイヤモンド社 1760円)
「デジタル化時代の『人間の条件』」加藤晋ほか著
デジタルは確かに便利だが、人と人のふれあいを少なくするだけでなく数々の問題がある。
まず情報統制。権力がSNSを操作することも単なる仮定の話ではない。
また自動化技術は労働の不平等にもつながる。さらにプラットフォーム企業が巨大化すると寡占状態が生じ、デジタル搾取が生まれる。
本書は経済学の各分野の専門家による「デジタル・ディストピア」を回避するための論文集。
デジタル時代には常時接続が普通になるが、これが当たり前と化すとネットに「参加しない自由」は制限されてしまう。個人の自律性も、今のままでは弱くなる一方だ。デジタル化は後戻りできない不可逆の変化。その中での人間の在り方の本質を問う。
(筑摩書房 1760円)