よみがえれ労組
「労働組合とは何か」木下武男著
いまや2割以下にまで落ち込んだ組合組織率。しかし、格差急拡大で頼りになるのは労組ではないのか。
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昨年の厚生労働省「労働組合基礎調査」では昨年6月時点での組合組織率(推定)は16.9%。戦後2年目からの推移を見ると、およそバブルの時期を境に3割台にまで落ち込んだことがわかる。しかしパート労働者の組織率は1990年の調査開始から右肩上がりで現在8.4%。組合の支援を必要とする人は確実にいるのだ。
ベテラン労働社会学者の著者は90年代初め、バブルの崩壊とともに「貧困と過酷な労働、雇用不安の3つ」という「これまでみたこともない現象」が現れたとし、「年功賃金・終身雇用制・企業別組合」という日本的労働慣行が崩壊したという。問題はこれが制度化されない単なる「慣行」だったこと。続ける意欲を企業が失えば消えてしまうのだ。
日本には「本当の労働組合」がない。歴史的にできなかったのだと著者は歯噛みして悔しがる。旧来型の労組では正規・非正規の同一賃金を実現することはできない。なぜなら、戦後の労働運動が墨守してきたのは年功賃金制だから。これでは同じ職業なら同じ賃金(賃金率)というエンゲルスが指摘した原則を実現できず、非正規には差別的な賃金しか支払われない。それゆえ日本の企業はコスト削減というと非正規を大々的に活用できるのだ。
同一賃金制と産業別組合の実現。これができなければガラパゴス日本は永遠に変われない。
(岩波書店 990円)
「賃金破壊」竹信三恵子著
朝日新聞の労働担当記者として長年健筆をふるってきた著者。生コンクリートを建設現場に運ぶ派遣労働の運転手らを組織した「連帯ユニオン」を取材して驚く。
リーマン・ショック後の反貧困運動の波に乗った連帯ユニオンだが、2018年夏以降、関西地区の組合員らがストや団体交渉を理由に次々に逮捕、起訴。しかも滋賀県警の逮捕者が起訴されると、すぐ大阪府警が別の理由で同じ人物を逮捕勾留し、保釈されないまま延々と勾留されるという奇怪な事態が起こっているのだ。しかも「働き方改革」では、過労死寸前までの残業が容認されるという労基法の改悪が実現し、管理職とのやりとりの録音を問題視する高裁判決までが出される。
記者会見で自由に発言することもできなくする法的な締め付けが進み、国会では日本維新の会の代議士が「連帯ユニオン」の関西生コン支部に対して、なんと破防法を適用するべきという質問まで出された。まさに副題にいう「労働運動を『犯罪』にする国」だ。
(旬報社 1650円)
「イギリス労働党概史」本間圭一著
労働者と労働運動への理解と政治的支援といえば、なんといっても本家本元はイギリス労働党。もとはスコットランドの貧しい炭鉱労働者を主体とする地域政党から始まったが、その歴史は120年に及び、保守党と2大政党でしのぎを削るようになってからも100年になる。その間、輩出した首相は6人。特にトニー・ブレアは「ニューレーバー」(新しい労働党)を代表する存在だが、イラク戦争ではアメリカに同調し、根拠ない予防戦争に国を引きずり込んだとして戦死者の遺族から次々に訴えられた。首相就任の前後で「これほど支持に落差のあった首相経験者は少ない」というほどだ。
著者は読売新聞記者としてロンドンやパリで特派員として過ごした経験から、英国労働党の党首が政権をとった際は、伝統的な支持基盤(つまり労組)に依存し過ぎず、国全体の状況を見ることが大事だという。
(高文研 3300円)