「次の電車が来るまえに」越谷オサム著
保険会社の支店長・真人は、午前中に顧客との新規契約を終え、故郷の一関に向かうやまびこ51号に乗り込む。通路を挟んだ席に親子3人連れが乗車してきた。幼い子供は車窓の景色にくぎ付けだ。その姿に前日、妻と一足先に真人の実家に向かった5歳の息子が重なる。
そういえば自分が初めて新幹線に乗ったのも5歳だった。妹が生まれる前、東京に家族旅行に出かけたときだ。普段は無口な父親のはしゃぐような声を覚えている。それ以来、何度も新幹線には乗った。就職した会社を2年で辞め、しばらく実家にいたとき、祖父の代から続く写真店を継ごうかと考えたが、そのことで父親と口論になり最終電車で東京に向かったこともあった。(「やまびこ」)
電車を舞台にした心温まる物語5作を収録。
(新潮社 693円)