知的好奇心をくすぐる大人のコミック本特集

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「本屋図鑑 だから書店員はやめられない!」いまがわゆい著

 コミックが子どものための本だったのは、もはや昔のこと。昨今では大人が思わず手にとりたくなるコミック本が増えている。今回は中国史、プルーストから猥褻までをテーマにした、知的好奇心をくすぐるコミック本5冊をご紹介!



 子どもの頃から本好きだった著者は、安定はしていたけれどどこか物足りなかった事務職を辞めた後、憧れだった書店員の仕事に就いた。本書は、休日も仕事の疲れを本屋で癒やすという根っからの本好きの著者が、書店員の仕事をリアルに伝えるコミックエッセーだ。

 雑誌の付録を付ける作業にいそしむ開店前の8時半、朝が早い年配客の問い合わせに追われる開店直後の10時、出版社の営業さんが来店する14時、学校帰りなどの客が増えてレジがスピード命になる16時など、書店員の一日を時系列で紹介。本がメディアで取り上げられると急きょ書棚を作り直したり、自分の推しの本が売れた様子を陰で喜んだり、本の話で同僚や営業さんと盛り上がったりと、著者が書店員生活をエンジョイしている様子がほほ笑ましい。

(廣済堂出版 1540円)


「マンガ猥褻考」黒鉄ヒロシ著

 人の心を落ち着かなくさせる猥褻(ワイセツ)とは何か。昭和26年の最高裁の判例では「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものを言う」と定義されているものの、ワイセツとそうでないものの境目はとかくややこしい。本書は、モノクロで描かれた1本の曲線や図柄を変化させながら、そこにワイセツさを見いだす人間の性に迫る大人のための異色マンガだ。

 時に医学用語にさえ興奮し、絵画や写真、動画など新しいメディアが生まれるたびにエロな世界を追求してしまう人間のサガや、禁止されればされるほど欲望が暴走する不思議さなどを考察。哲学・歴史・文学など総動員して、極めて大真面目に真正面からワイセツの秘密を暴いている。

(河出書房新社 1320円)


「失われた時を求めて スワン家のほうへ」マルセル・プルースト作 ステファヌ・ウエ画 中条省平訳

 途中で挫折することで有名なプルーストの大長編小説「失われた時を求めて」が、フランスでコミック版となり10万部を超えるベストセラーになった。本書はその第1編「スワン家のほうへ」の翻訳版。

 主人公「私」が夢うつつで幼い頃に過ごしたコンブレーという土地での思い出を想起するところから物語は始まる。なかでもマドレーヌのお菓子と一杯のお茶から少年時代の思い出が一気になだれ込んでくる有名な場面は壮観。上品な絵柄でプルーストの世界にいざなう。

 小説版と比較して読んでみるのもお勧めだ。ただし原文から煩雑な枝葉を整理してコミックに編集されているとはいえ、さすがプルーストだけあって文字量は想像以上かも。字が小さめなのと、日本のマンガ手法とは異なるコマ割りなので、覚悟の上でご挑戦あれ。

(祥伝社 2750円)


「ポッケの旅支度」イシデ電著

 野良猫のポッケとピップを引き取り、一緒に暮らしていた漫画家のイシデ氏。15年もの歳月を猫と共に暮らしてきたが、ある日2匹とも多くの猫がかかる慢性腎不全にかかっていることを知った。特にポッケはステージ2まで進行していて、腎臓が3割程度しか機能していないという。

 もっと早く病院に連れていくべきだったか、それとも成り行きに任せるべきだったかと思う間もなく、ポッケは次第に食が細くなり、トイレにもたどりつけなくなり、やがて最後の日を迎えることになった。

 一緒に暮らしてきた猫が亡くなるという事実をどう受け止めていけばいいのか。喪失感と蘇ってくる思い出をかかえながら、残されたもう1匹の猫との生活に歩み出す著者。猫好きの人にはたまらない、切なくも愛おしいコミックエッセーだ。

(KADOKAWA 1320円)


「マンガ始皇帝項羽と劉邦」石ノ森章太郎著

 中国大陸で初めて統一国家を樹立した秦の始皇帝の天下統一までの道筋から死までを描いた「始皇帝」編と、秦の始皇帝没後に覇権を争った2人を描いた「項羽と劉邦」編が収録されている中国歴史漫画。

 始皇帝編では、昭襄王の孫・子楚が後ろ盾となっていた呂不韋の愛人だった趙姫を妻にし、のちに始皇帝となる嬴政が生まれたことが描かれる。子楚が亡くなった後、趙姫との関係を続けていた呂不韋が関係発覚を恐れて趙姫に別の愛人・嫪毐をあてがうものの、その後子が誕生することになり、怒った嬴政が嫪毐を討伐する様子なども描かれる。

 巻頭には、早稲田大学教授・渡邉義浩氏による解説も付いており、時代背景や人間関係などを含めて理解しやすい。

(飛鳥新社 1320円)


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