「動物行動学者、モモンガに怒られる」小林朋道著
動物行動学や動物心理学などさまざまな科学分野において、ヒト以外のものをヒトになぞらえる擬人化は、客観性を損ない、結果の解釈にも誤解が生じるという批判がなされることが多い。
しかし著者は、幼児がぬいぐるみを含めて生物に大きな関心を示し、生物とふれあおうとするのは、ヒトの脳には生物とふれあうことで活性する「生物専用機能回路系」が組み込まれていてそこで大きな力を発揮するのが擬人化思考だとしている。実際著者は、交通事故で翼を傷めたドバトが死んだとき、元気だった頃の“甘えたり”“頼ったり”したハトの姿を思い出し悲しかったという。
本書は、著者が接した9種類の動物たちの生息環境や習性を描きながら、動物行動学からの「野生動物たちとの共存」の在り方について考察したもの。むろん、ふんだんに擬人化が使われている。
表題は、モモンガの子どもの数を調査するために巣箱を調査していたところ、巣を離れていた母モモンガが著者を睨みつけていたように思われたところからきている。ニホンモモンガが生きていくためには、スギの中にミズナラやイヌシデ、ブナなどの自然木が散在するような森が必要なのだが、開発によってその環境は狭められている。こうした野生生物の生息地を保全することは、それを守ることによって喜びや元気が生まれるという精神的利益も生じる。
さらには、モモンガ・エコツアーや地域のスギを素材にしたグッズの販売など経済的利益も生まれる。今はこうしたヒトの特性に合致した、野生生物との共存の形態が強く求められているのだと訴える。
そのほか、目を開けて眠るアカネズミ、小さな島に一頭だけで生きるシカ、公衆トイレをつくるタヌキ、ザリガニに食べられるアカハライモリなど、ユニークな動物たちが登場する。野生動物の共存をどうすべきかの「考えるヒント」もふんだんに盛り込まれている。 <狸>
(山と溪谷社 1925円)