「いねむり先生」伊集院静著
「その人が/眠むっているところを見かけたら/どうか やさしくしてほしい/その人は ボクらの大切な先生だから」と始まる本書は、著者の若き日を描く自伝的小説。
先生とは、「ギャンブルの神様」と呼ばれ、阿佐田哲也の名でも知られる作家の色川武大その人だ。
女優だった最愛の妻を病で亡くした主人公のサブローは、酒とギャンブルにのめり込み体を壊し、ただ人生に立ち尽くしていた。ある日、心配したK先輩から「先生」を紹介される。初めて会ったとき、先生は酒場の片隅で眠りこけていた。所かまわず突然眠りに落ちてしまうナルコレプシーという病気だという。
先生と接するうちに、そのやさしさと「奇妙な安堵感」に包まれ、止まっていたサブローの人生の時間が少しずつ動き出す。
やがて連れだって競輪の「旅打ち」へ出かけるようになる。旅先で自らの懊悩を先生に明かしたサブローは、先生もまた心に闇を抱え苦しんでいることを知る。
敬愛する「先生」との思い出をつづりながら、主人公の再生していく姿を描く感動作。
(集英社 902円)