「壊れる心」堂場瞬一著
日本では1980年に犯罪被害者等給付金支給法が成立。その後、96年に警察庁が被害者対策要綱を制定、98年には公益社団法人全国被害者支援ネットワークが設立。2000年には犯罪被害者保護法、04年に犯罪被害者等基本法が制定されるなど、犯罪被害者への支援対策がなされるようになったのは近年のことだ。
本書は、警視庁犯罪被害者支援課という架空の部署を舞台に、犯罪被害者支援におけるさまざまな問題を浮き彫りにしたシリーズの第1作だ。
【あらすじ】村野秋生は35歳。警視庁総務部犯罪被害者支援課に勤務。以前は捜査1課の刑事だったが、ある出来事を機に、4年前に自ら望んで支援課に異動したのだ。
月曜日、午前中の定例ミーティングの最中、交通事故の一報が入る。有楽町線豊洲駅前の歩道に車が突っ込み、登校中の子ども3人を含む5人が死亡したという。現場に向かった村野は悲惨な現場を見て絶句する。見通しのいい直線道路で、単なるブレーキとアクセルの踏み間違いではこれほど酷い事故にはならない。しかも、運転手は現場から逃走して行方がわからない。
その後、死亡者が搬送された病院に駆けつけた村野は被害者の一人、大住茉奈が妊娠中だったと知る。死者は5人ではなく6人だった。夫の宏志は現実を受け入れられずに村野を殴りつける。
逃走した犯人がいまだに捕まらないことに、宏志をはじめとする被害者遺族たちは苛立ちを募らせていく。懸命に被害者らと向き合う村野たちだが、事件は意想外な方向へ向かっていく……。
【読みどころ】なぜ村野が支援課を志望したのかも本書の重要なカギ。自らの過去と進行中の事件がリンクしながら、被害者支援という難問に立ち向かう村野の痛切な思いが響いてくる。 〈石〉
(講談社 968円)