地政学で見る世界図

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「武器としてのエネルギー地政学」岩瀬昇著

 ウクライナの戦乱で世界はエネルギー供給や食糧危機で大混乱。地理と政治を重ねる地政学に学ぶものは多い。

  ◇  ◇  ◇

「武器としてのエネルギー地政学」岩瀬昇著

 ウクライナ侵攻という「プーチンの戦争」はエネルギーの意味を変えた。平時はどこからでも調達可能な「コモディティー」であるはずの天然ガスや石油が「有事は戦略物資」にたちまち変貌する。

 本書の冒頭でそう指摘する著者は三井物産で長年エネルギー畑を歩んだ元商社マン。20年以上も海外を渡り歩いた経験をもとに、エネルギー資源こそ、地理と政治がからみあう「地政学」の戦略が肝心と学んだようだ。

 たしかにドイツがウクライナ支援に及び腰なのも、原発依存のフランスと違ってロシアの天然ガスが最大のエネルギー供給源だからだ。

 著者はいまやロシアにとってガスは「政治の武器」という。

 また、ロシア産の石油をインドは爆買いし、中国は表向きひかえめながら様子をうかがっている。

 本書は「環境先進国」のイメージの強い欧州各国の実態や米、中、サウジアラビアなどの実情をわかりやすく解説。高らかに語られる「グリーンな未来」のための政策がどこまで実現可能かをふまえ、エネルギーなき日本の進む道を提言している。

(ビジネス社 1760円)


「エネルギーの地政学」小山堅著

「エネルギーの地政学」小山堅著

 エネルギーが国際的な供給チェーンを経由して獲得されるのは常識だ。

 政府系シンクタンクの日本エネルギー経済研究所に勤務する著者は「地政学」の解説からていねいに教えてくれるのがいい。

 著者は今回のウクライナ危機は半世紀前の第1次石油危機(オイルショック)と共通点があるという。後者のきっかけはエジプトやシリアによるイスラエルへの奇襲攻撃から始まった第4次中東戦争。このときアラブ側は石油を「武器」として、国際社会の各国を「友好国」「中立国」「敵対国」に3分した。

 それまで当事国でなかった日本は友好国扱いを期待したが、アラブ側の認定は中立国。そのため毎月5%の供給減に苦しむことになった。日本外交のマヌケさが表れたのだ。

 著者は明言してないが、今回も西側に引きずられた日本はロシアから「非友好国」扱いで、大金を投じたサハリン2の事業もやすやすと巻き上げられた。独自外交の難しさを考えさせられる。

(朝日新聞出版 1001円)


「危機の地政学」イアン・ブレマー著 ユーラシア・グループ日本、新田享子訳

「危機の地政学」イアン・ブレマー著 ユーラシア・グループ日本、新田享子訳

 いまから20年以上前、地政学の重要性をふまえた政策提言コンサルティング会社「ユーラシア・グループ」を創設したのが著者。気候変動問題や新型コロナの感染爆発問題などでも精力的に発言を続けてきた。特にエネルギー問題は、供給網の話だけでなく、なにより気候変動に直結してきた大問題だ。

 これを解決するために先進国ではテクノロジーで環境を変える「地球工学」が提唱されている。

 たとえば温暖化を防ぐために硫黄酸化物などを大気圏上層部に散布すると、太陽光が宇宙に反射されて地球に届く量が減る。しかしこれは長期的に地球を壊す可能性があるだろう。地政学の知見は、短期的な損得勘定を超える視野を得ることなのだ。

 著者はソ連研究で博士号を取得しただけに本書でも「追記」でウクライナ侵攻問題に言及している。

(日経BP 2420円)

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