「撃てない警官」安東能明著
「撃てない警官」安東能明著
警察組織は強固な階級社会だといわれる。警察官の出世コースはキャリア、準キャリア、ノンキャリアによって異なるが、大多数を占めるノンキャリアにとって、出世できるかどうかはその後の警察官人生にとって(退職後も)死活問題。本書は、さらなる出世を望む管理部門の職員が主人公だ。
【あらすじ】柴崎令司は36歳。私立大学を卒業後、警察学校を上位の成績で卒業。2年半の所轄署勤務後、10年間本庁の管理部門に籍を置く。
昇任試験を一発合格しながら階級を上げていき、34歳で警部に昇任。そしてこの春、晴れて総務部企画課係長に命ぜられる。
総務部企画課は警視総監直属の筆頭課で出世コースの最前線、ここで頑張れば……と思っていたときに、木戸巡査部長が拳銃自殺したとの報が飛び込んできた。木戸はうつ病を患っていて拳銃射撃訓練は禁止されていた。ところが、上司の中田課長から訓練に参加させるようにとの電話が入り、柴崎が木戸にその旨を伝えた。その直後の自殺だ。しかも中田課長はそんな電話をした覚えがないという。このままでは自分の責任となってしまう。
何とか濡れ衣を晴らそうと、木戸がある犯罪被害者の女生徒と不倫していたことを突き止めるが、捜査経験のない柴崎にはそれ以上追及することができない。上司たちはうまく責任を逃れ、柴崎だけが詰め腹を切らされ、所轄署に左遷させられてしまう。
これが冒頭の表題作。以後、左遷させられた柴崎が汚名返上すべく、所轄署で勤務しながら自分を陥れた相手に意趣返しを企てる……。
【読みどころ】日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞した「随監」も含む全7編の連作短編集だが、柴崎の刑事としての才能が徐々に芽生えていく長編小説の趣もある秀作。 〈石〉
(新潮社 693円)