「犯人に告ぐ(上・下)」雫井脩介著

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「犯人に告ぐ(上・下)」雫井脩介著

 日本で「劇場型犯罪」という言葉が使われるようになったのは「かい人21面相」によるグリコ・森永事件からだろう。メディアに送られてきた犯行声明をめぐって、マスコミ各社の報道ぶりは劇場の様相を呈していた。本書はそうした犯罪に対抗すべく、捜査当局がマスコミに登場し犯人に呼びかける「劇場型捜査」を行うというもの。

【あらすじ】川崎市内で4人の男児が連続して殺害されるという事件が発生した。

 4件目の子どもが行方不明になった際に、ミヤコテレビのニュース番組「ニュースナイトアイズ」で、過去3件の事件とのつながりが危惧されると報道。その中で女性アナウンサーの早津名奈が、犯人を「最低の人間」と非難した。すると、早津宛てに「バッドマン」と名乗る犯人が4件目の遺体遺棄場所を示唆するとともに、早津の子どもに危害を加えると脅した手紙が届いた。

 一方、有力な手掛かりがなく手詰まり状態に陥っていた神奈川県警は「ニュースナイトアイズ」に現役の刑事を出演させて情報提供を呼びかけるという奇策を打つことに。白羽の矢が立ったのは、6年前に幼児誘拐事件の捜査責任者として犯人の確保に失敗、おまけに記者会見で大失態を演じた巻島史彦警視だった。

 こうして前代未聞のバッドマンと巻島を主役に据えた劇場型捜査が始まるが、巻島が犯人寄りの言動をしているとの非難が湧き上がる。また巻島を陥れようとする「内部の敵」の画策もあり、捜査は混乱の一途をたどる。

【読みどころ】四面楚歌状態になった巻島だが、周囲の非難や心配をよそに粛々と自分の役目をこなしていく。なぜなのか。巻島というキャラクターを丁寧に描くことで、一見現実離れした設定が極めてリアルな物語になっていく。 〈石〉

(双葉社 上660円、下681円)

【連載】文庫で読む 警察小説

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