「交渉人」五十嵐貴久著
「交渉人」五十嵐貴久著
立てこもり事件や誘拐事件の犯人に対応するため、欧米などではプロの交渉人(ネゴシエーター)の育成がなされているが、近年日本でも、専門の人質交渉官として捜査1課特殊犯捜査係などに置かれるようになったという。本書は、その交渉人が主人公。
【あらすじ】警視庁に入庁した遠野麻衣子は内勤希望だったが、男女雇用機会均等法の実例を示そうという上層部の思惑により、警備部警護課特殊捜査班に配属された。一方、FBIでネゴシエーターの研修を受けた石田修平警視正は、日本で最も交渉術に詳しい警察官として人材育成に当たっていた。そこで白羽の矢を立てられたのが麻衣子だった。
麻衣子は石田を講師として交渉術の研修を受け優秀な成績を収めたが、次第に石田に引かれていくのを感じていた。それを知ってか、彼女の優秀さをやっかむ何者かに石田との不倫をでっち上げられ、所轄の経理課に左遷されてしまう。
それから2年。品川でコンビニ強盗があり、逃走した犯人3人が近所の病院に人質を取って立てこもるという事件が起こった。石田が犯人との交渉に当たることになったが、到着までの間、麻衣子に代理として現場の指揮を執るようにとの要請があった。なぜという疑問ながら石田と会える喜びで麻衣子は事件に臨む。
石田の到着後、犯人側との交渉が始まるが、それは教科書通りの見事なもので、周囲の警官たちも感嘆を隠せなかった。いよいよ最後の人質解放の段階になって、特殊部隊の突入態勢も整ったかに思えたが、そこで待っていたのは……。
【読みどころ】FBI仕込みの交渉術を駆使する緊迫した展開と意想外の結末。エンターテインメントの要素がたっぷり詰め込まれた傑作サスペンス。 〈石〉
(幻冬舎713円)