「カルト権力」青木理著
「カルト権力」青木理著
2022年7月8日。辺野古での取材を終え、那覇空港の出発ロビーにいた著者は、スマホのニュース速報で、安倍晋三元首相が銃撃されたことを知る。飛行中にPCで情報を収集し、関係者と連絡をとり、羽田空港に到着後、すぐに一本の原稿を書き上げて、共同通信に寄稿した。
本書は、そのときの一文「衝撃的テロ──暗い隘路へ迷い込むな」から始まる。だが、あの事件を追ったノンフィクションではない。事件前後の約1年半の間に、雑誌や新聞に寄せたコラム、評論、ルポルタージュをまとめた時評集である。常に権力の動向を注視し、批判してきたジャーナリストが日々書きつづった文章は、この国がいま抱えている問題をさまざまな角度からあぶり出す。
この間の2つの重大事件、元首相銃撃事件とロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、差別、排外主義、公安、死刑制度など、テーマは幅広い。
著者は、あの銃撃事件が起こる前から、いずれこうした事件が起きるのではないかと危惧していたという。経済は長期低迷、財政は悪化、少子高齢化は止まらず、未来が見えない。閉塞感が覆う中、歴史修正主義や薄っぺらなナショナリズムが横行している。それを問うべきメディアは萎縮し、権力に寄り添い、報道の自由度は著しく後退。この現実をジャーナリストの目で切り取って、「これでいいのか」と読者に問いかける。
1990年代に共同通信記者として公安警察を担当していた著者は、当時、公安警察が旧統一教会への組織的捜査に乗り出すと聞いていた。しかし、その動きはパタッと止まってしまう。公安幹部はこう漏らした。「政治の意向だ」。こうして戦後政権与党と教団の「隠微な蜜月」は絶たれることなく続いた。この国の中枢に居座っているのは、カルト宗教に毒された権力。
短い原稿を集めた時評集だが、通読すると、大きなストーリーが見えてくる。
(河出書房新社 1760円)