「農協のフィクサー」千本木啓文著
「農協のフィクサー」千本木啓文著
JA京都中央会会長・中川泰宏。京都の農協トップに27年以上にわたって君臨する独裁者である。貸金、不動産業で身を起こし、36歳のとき全国最年少で農協組合長に就任。農協改革で力を発揮して政界入り。地元の政敵、野中広務と激しい権力闘争を繰り広げた。小泉チルドレンのひとりとして衆議院議員選挙に当選するも、再選はされず、その後はフィクサーとして農協組織を裏支配している。
著者はかつてJAグループの機関紙「日本農業新聞」の記者で、当時から中川の悪評は耳にしていた。その後「週刊ダイヤモンド」の記者となり、京都の米卸し、京山の「コメ産地偽装疑惑」を報じた。その真偽をめぐって中川サイドから訴訟を起こされ、4年にわたる裁判を闘って勝った。中川の半生を追った本作品の背景には、この浅からぬ縁がある。
中川は1951年、京都府八木町(現南丹市)で生まれた。幼少期にかかった小児まひの影響で足が不自由になり、ひどいいじめを受けた。「引きずって歩く不自由な足は私の名刺であると同時に武器でもある」と自ら語っている。
若き日の中川は本気で「差別のない社会」「頑張った者が報われる社会」を目指していた。生真面目で熱心で、力もあった。だが、農協の若き改革者は、しだいに利権をむさぼるようになっていく。農協組織を動員して悪質な地上げを行い、ゴネ力で人事に介入し、中川の政治力拡大に貢献した人物を出世させる。中川は農協を私物化し、独裁者となっていった。その権力の陰に隠れて甘い汁を吸う子飼いたちによって聖域に祭り上げられた中川は、裸の王様のようにも見える。
地方政治や農協に限らず、古き悪しき「昭和の腐臭」が漂う組織は、まだまだあるだろう。最後に著者は、こう警告している。
「そういった組織は若手の人材から見限られ、やがて根腐れして倒れる。その責任は、独裁者と同等に、子飼いたちにも問われてしかるべきだろう」
(講談社 1980円)