「実録 バブル金融秘史」恩田饒著
「実録 バブル金融秘史」恩田饒著
著者は1962年に大和証券に入社、MOF担(大蔵省担当)、大和証券常務取締役、証券団体協議会常任委員長などを務めた証券マン。バブルの発端とされる1985年の「プラザ合意」のときは、現地ニューヨークにいた。
バブルの生成と崩壊、その後の失われた30年。大波の渦中で体験した、すべてを語り下ろした本作は、この40年あまりの金融界の裏面史でもある。
「MOF担は頭取への近道だった」「財テクに踊らなかった稲盛和夫」「バブルを見抜けなかった日銀総裁の後悔」「『損失補填問題』の裏で甘い汁を吸っていた大企業」「山一破綻の最大の原因は歴代の社長人事か」など、当事者ならではの言説が展開する。経済学者や評論家によるマクロなバブル論とは違い、エピソードが豊富で人間くさい。
例えば、野村、山一、大和、日興の四大証券のMOF担は定期的に会合を開き、情報交換していた。業界のリーダー格、野村の社員はやり手。かつての名門、山一の社員は人間味がある。日興と大和は平均的ビジネスマン。そんな印象を持ったという。ライバルでありながら同志。バブル以前のよき時代だったのかもしれない。
バブル崩壊後、平成の金融界は変革の波に揺られた。それを象徴するのが1997年の山一証券の自主廃業だった。その経緯も詳しく書かれている。野沢正平社長の涙の記者会見は、平成金融史上の忘れ得ぬ一コマとなった。
橋本内閣による金融ビッグバンを契機に、証券業界では大手証券の再編や中小証券の統廃合、吸収合併が活発になっていく。銀行と証券会社の垣根がなくなり、準大手証券会社の多くが銀行の軍門に下った。もう証券会社はいらないのか?
著者は最後に「中小証券会社が生き延びる道」として、6つの具体的な提言をしている。本作は、金融界で生きる後進にとって、またとない教科書になるだろう。 (河出書房新社 1980円)