「読んだ、知った、考えた」河谷史夫著/弦書房
「読んだ、知った、考えた」河谷史夫著/弦書房
「日刊ゲンダイ」デジタルに「この国の会社」を連載していた時、㈱文藝春秋を取り上げ、社長人事をめぐって内紛があっても「週刊文春」には載らないので、文春砲は文春自体には発射されない、と皮肉った。
この本は月刊誌「選択」の連載「本に遇う」をまとめたものである。「アベノヒトリズモウ」と題した一編がとりわけ秀逸。
2022年2月号の「文藝春秋」に載った安倍晋三への「独占インタビュー」を痛烈に批判している。
この号には岸田文雄の「緊急寄稿」も掲載されているが、その「現元首相を二枚看板にした作法」を捉えて河谷はこう指弾する。
「かつて『金脈批判』で現職首相田中角栄を窮地に追い込んだ同じ雑誌とはとても思えない。あからさまな権力者への擦り寄りぶりは、一体どうしたことだろう」
「文藝春秋」が「月刊Hanada」になってしまったわけである。
「インタビューというのは、聞き手と答える人とのやり取りに妙味があり、『聞きづらいこと』を聞いてどう応ずるかが見所である」と河谷は説き、「しかし安倍の言いたいことが続くばかりのさながら独り相撲で、これはただの宣伝ビラでしかない」と断罪している。
河谷が番外として追悼している渡辺京二の司馬遼太郎批判も鋭い。
渡辺は初期の司馬作品は愛読したが、「坂の上の雲」で離れたという。その後、必要があって「翔ぶが如く」を読んだが苦痛だったとし、「小説としてみれば、スカスカである」のに、講釈ばかり多くて、読み続ける意欲をなくしたと回想している。
私は「司馬遼太郎と藤沢周平」(光文社知恵の森文庫)を書いて司馬を徹底批判し、多くの司馬ファンから抗議の手紙をもらった。
しかし、天皇制の問題をはずすと日本の歴史がよく見えると言っている司馬を肯定するわけにはいかない。「そんなバカな」である。
河谷は「天皇制は必要なのか」の項で、在野の歴史家の岡部牧夫が「原則として死ぬまで一つの職務、それも自分の意志で選んだわけでもない職務を続けなければならないことは、非人間的で残酷な制度と言うほかない」と指摘しているのを引く。そして河谷は、岡部なら「特定の家系が政治的権威を世襲で伝世する君主制は、不合理でむだな体制である。世襲だと秀れた人物が常に国家元首になる保証がないし、またその維持に莫大な経費を要する」という論陣を張るだろうと予測している。 ★★★(選者・佐高信)