「新宿鮫 新宿鮫1」大沢在昌著
「新宿鮫 新宿鮫1」大沢在昌著
藤原審爾の「新宿警察」シリーズは、新宿の警察署を舞台にした警察小説として名高く、刑事一人一人をクローズアップしていく手法は「日本の87分署」とも呼ばれた。同シリーズは1960年から四半世紀にわたって書き継がれたが、1990年に刊行された本書は、新宿だけでなく警察小説全体に画期をもたらした記念碑的作品だ。
【あらすじ】鮫島は新宿警察署防犯課に所属する警部。もともとは国家公務員上級試験に合格したキャリアだったが、27歳で、ある県警本部の公安3課に配属される。公安内部の暗闘に巻き込まれ所轄署へ転任したが、鮫島はその暗闘のカギを握る手紙を保持していた。それを暴露されたら困る上層部も下手に手出しができず、孤立無援の警部という稀有な存在になった。
ヤクザ相手になれ合うこともメンツを立てることもせず、音もなく近づき、不意に襲いかかってくることから、恐怖を込めて「新宿鮫」のあだ名がつけられていた。
歌舞伎町で巡査2人が射殺される事件が起きる。いつも通り、鮫島は単独で事件の捜査を始めるが、事件に使われたのが改造拳銃だということが判明する。鮫島は、その銃の独特の形状から以前の捜査で逮捕した銃密造の天才、木津が作ったものだと推察する。
早速、木津の行方を追い、なんとかその隠れ家を突き止めて潜入する鮫島だが、そこで待っていたのは……。
【読みどころ】鮫島の恋人でロックシンガーの晶との会話と新宿という猥雑な町の細密な描写は、本シリーズの読みどころだが、第1作の本書でも存分に味わえる。シリーズは長編12作、4作目の「無間人形」は直木賞を受賞。そのほか、短編集や映像化作品もあり、日本の警察小説の大きな山脈を形づくっている。 <石>
(光文社 792円)