「警視庁情報官 シークレット・オフィサー」濱嘉之著
「警視庁情報官 シークレット・オフィサー」濱嘉之著
日本の諜報関係としては、内閣官房内閣情報調査室、法務省の公安調査庁、外務省の国際情報統括官組織、防衛省の情報本部などが挙げられるが、アメリカの中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)と比較すると、予算的、人的に極めて大きな差がある。そこで、情報のプロ集団を集めた専門組織を新たに立ち上げる──という設定で本書は始まる。
【あらすじ】警視庁総務部企画課情報室は警視総監の北村の発案で新たに設置された部署だ。北村は公安部長時代に「スパイ天国」といわれるほど日本のインテリジェンスが脆弱なことを危惧し、親友の警察庁総括審議官の西村と組んで警視庁内に新たな情報組織をつくることを画策。
各部署から優秀な人材を集めるが、そのメンバーのひとりとして白羽の矢が立ったのが警視庁情報官の黒田純一だ。黒田はノンキャリアながら昇進試験をすべてトップで合格し、情報収集と分析能力に関してはずぬけた能力の持ち主として一目置かれていた。
その黒田のもとへ、キリスト教系の原理主義に基づく宗教団体で世界各地でトラブルを起こしている世界平和教にガサ入れが入るとの情報が飛び込んできた。同時に、北村から情報室を揶揄する怪文書を見せられ、その出どころを探るように命じられる。黒田は手を尽くして情報収集に当たるが、一見無関係なようなこの2つが徐々に結びつき、やがて政官財を巻き込む大事件へと発展する……。
【読みどころ】ノンキャリアの黒田が出世していく経緯も同時に描かれていく。マスコミ、政財界との付き合いから情報収集法など、警視庁の公安畑を中心にエリートコースを歩んだ著者ならではのリアルな描写に満ちた、屈指のインテリジェンス小説。 〈石〉
(講談社 858円)