「食卓の世界史」遠藤雅司(音食紀行)著
「食卓の世界史」遠藤雅司(音食紀行)著
「ぼくがつくったジュースを飲めば絶対に風邪をひかない」とイラン人のメヘディさんは豪語している。テヘランのお宅を訪ねたとき目の前で作ってくれたそれは、クミン、セロリ、ミント、レモン汁、タマリンド水、塩、蜂蜜などを目分量で混ぜた謎ジュースだった。なんとも形容しがたい色と味をしていたが……うん、たしかに体にはいいような。わたしはそれを「メヘディ・スペシャル」と名付けた。
本書は、歴史料理研究家の遠藤雅司さんが古今東西の英雄の食卓をひもといていく一冊。ハンムラビ、アレクサンドロス3世、ネロ、楊貴妃と続いていくラインアップに世界史好きの胸は躍る。
アレクサンドロスの宴会には寝台が用意されていて、武将たちはしばしば横になって食事をとった(行儀の悪いわたしが憧れる飲み会スタイル!)。マルコ・ポーロはモンゴル語、ペルシャ語、トルコ語、ウイグル語を習得してそれぞれ読み書きができた(語学ができる冒険家、高野秀行さんみたい)。フリードリヒ2世は若い頃コーヒーを1日40杯飲んでいた(やばいね。依存症だね)。エピソード満載で本は瞬く間に付箋だらけに。
5~6世紀にビザンツ帝国の兵士が飲んでいた「フスカ」という健康飲料が気になった。ベースは酢と水。時代が下るとそこにさまざまなハーブが加えられていったとか。クミン、ペニーロイヤルミント、セロリシード……。
あれ? イランで飲んだ「メヘディ・スペシャル」となんとなく似ている? わたしはビザンツ帝国の勢力地図をネット検索し、にんまりと眺めた。この本からいろんな妄想が広がるなぁ。
(筑摩書房 1012円)