「アルプス席の母」早見和真著
「アルプス席の母」早見和真著
甲子園球場のアルプス席にいた秋山菜々子は、「航太郎くん、出てくんで!」と言われて我に返った。延長十一回の表。4対4だ。
背番号「18」の航太郎が「伝令」としてマウンドに駆けていく。航太郎は将来は高校野球の監督になりたいと言う。エリートよりも自分のようにしんどい思いをしたほうが監督には向いていると。ピッチャーの背中を叩いて航太郎がマウンドを去ろうとしたとき、菜々子は叫んだ。「航太郎ーっ!」
夫が生きていた頃、山藤学園が優勝したのを見て、「航太郎が山藤の選手として甲子園なんて出たら、お父さん泣いちゃうだろうな」と言ったのを思い出した。
高校野球に打ち込む息子を支える母を描く野球小説。 (小学館 1870円)