10年間で4600店減!本屋についての最新本特集
「街の書店が消えてゆく」月刊「創」編集部編
今年3月時点の全国の書店数は1万918店。10年前より4600店余り減った……と嘆いていても始まらない。リアル書店の大切さは承知の通り。今週は、街の本屋についての最新の本を紹介する。
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「街の書店が消えてゆく」月刊「創」編集部編
マスメディア批評の月刊誌「創」が、「街の書店が消えてゆく」という特集を初めて組んだのは2019年11月号。以来、5年間の継続取り組みをまとめたのが本書だ。
「無書店」の自治体が全国に拡大しているが、暗い話ばかりではない。ノンフィクションライターの三宅玲子氏は、北海道・留萌で、署名活動をした地域の人たちが行政と連帯し、三省堂書店を誘致した上、13年にわたってボランティアチームが運営を担っている様子をリポート。
東京都書店商業組合は22年10月から、「木曜日は本曜日」というキャンペーンを開始し、著名人が「人生を変えた10冊」を語るシーンをYouTube配信。人気を得ている。今年4月に神保町でシェア型書店を開いた作家の今村翔吾氏が「自分で書店をやりたいという若者がいっぱいいる」と気付いたという。実際、独立系書店が隆盛となっている状況を記者の長岡義幸氏が追いかける。
「自分にとって、書店の存在とは」と再考させられる。
(創出版 1650円)
「2028年 街から書店が消える日」小島俊一著
「2028年 街から書店が消える日」小島俊一著
出版取次の大手、トーハン勤務だった著者は、石川県の小さな書店チェーンに出向し、経営再建などを担ったが、倒産させてしまった。その十余年後、愛媛県で当時80店舗展開だった書店チェーンに出向。2年半で業績をV字回復させた。失敗と成功の両経験を持ち、出版業界を熟知している。
本書は、著者を訪ねてきた就活中の甥っ子に、出版業界を多面的に伝えるというスタイルを取る。出版社、取次、書店などの第一線にいる28人のプロフェッショナルにインタビュー。「本屋をめぐる厳しい現状」「注目の個性派書店から見える希望」「出版界の三大課題は正味・物流・教育」「提言--生き残る本屋の道」の各章とも本音が語られる。
北海道の書店社長が「『鬼滅の刃』最終巻を1万部仕入れ、初日に売り切った」、ビジネス書出版社経営者が「書店店頭広告ビジネスの儲け方教えます」と語るなど、出版業界以外にも通じる示唆が詰まっている。
(プレジデント社 1870円)
「ルポ書店危機」山内貴範著
「ルポ書店危機」山内貴範著
「地方の書店の状況を知ってほしい」と著者が言う。地方書店の「今」を、少子高齢化が進む客のライフスタイルなどの角度から伝える。
著者の出身地である秋田県羽後町唯一の書店「ミケーネ」。1992年に創業。最盛時、年間売り上げが1億円を超えたが、今では税込み2600万円で、粗利益は約500万円。経費を引くと、「家族3人で朝から夜10時まで働いて」手元に残るのは200万円。「原因は、ネット販売の拡大、電子書籍の普及、人口減の3点」と店主(75歳)が言う。
売れ筋の本が配本されないので、自分でネット購入できない年配客に、店がアマゾンから取り寄せ、手数料を取らずに手渡す。人口減により、他人の行動が見えやすくなった影響か、成人向け雑誌やボーイズラブの本が売れなくなった。
「『ミケーネ』では、書店の傍ら、民宿と学習塾を経営し、やりくりなさっています」と著者。
ほかに、横須賀、沼津、静岡、甲府、福井などの書店も紹介されている。
(blueprint 2420円)
「しぶとい十人の本屋」辻山良雄著
「しぶとい十人の本屋」辻山良雄著
著者は、東京・荻窪の新刊書店「Title」の店主。2016年に開業した同店は、その後増える独立系書店の先駆けであり、金字塔でもある。ところが8年経って「ふと自分の仕事がわからなくなった」と。「そうだ、旅に出よう」と思ったのだそう。本書は、全国で個人書店を営む9人に会いに行った、いわく「約1年間の旅の記録」だ。
本屋の店主が同業者の話を聞く--。自分は本屋じゃないから関係ないと思うのは早合点。本のタイトルにある「しぶとい」が意味するのは、「商売として続けていくためには売り上げ第一。でも、一人の人間として大切にしたいところはゆずれない」という考えに通底。
静岡県掛川市の「高久書店」店主は、高齢や病後など「購買弱者」に本を配達するのが毎朝一番の「やるべき仕事」だと言う。大阪府島本町の「長谷川書店」では「僕はもともと、明日はないくらいいまを全力で生きている人間」との言葉を聞く。
ページをめくるたびに、誰もがハッとさせられる。
(朝日出版社 2310円)