「人はどう悩むのか」久坂部羊著/講談社現代新書(選者:佐藤優)
「私」と「群れ」 悩みの解決策は究極的には2つになる
「人はどう悩むのか」久坂部羊著
小説家で医師の久坂部羊氏による実用性の高い人生指南書だ。人間は群れをつくる動物だ。悩みのほとんどは、個体である「私」と群れの他のメンバーの間で生じる。解決策は究極的に2つになる。
第1は、群れに「私」を合わせることだ。
<学生時代までなら、気にくわない相手とは距離を取ればすみますが、いったん家族になったり、職場や地域との関係があったりすると、簡単に離れられません。/フォーマルな組織では義務や責任がベースとなっていますが、インフォーマルな付き合いでは、好き嫌いなどの感情がベースとなります。いわば気楽な付き合いで、共感や楽しさ、共通の価値観、親和性などが重視されます。/そこで必要になってくるのが、コミュニケーション能力です。表現力や理解力、傾聴力、共感力、知識や情報の豊富さなどで、「場の空気を読む」ことも重要です。これが不十分だと、相手の感情を害したり、共感が得られなかったりして、付き合いの中で浮いてしまいます>
要は同調圧力の中で、うまく生きていくということだ。
第2は、群れのことを気にせずに「私」を中心に考え、行動することだ。
<渋滞したときはできるだけとなりのレーンは見ず、ほかのことを考えて、渋滞を頭から追い出します。すると、いつの間にかスムーズに走り出します(私はたいてい小説のプロットを考えます。いいアイデアが浮かぶと、イライラしない上に、時間も無駄にはならず、得をした気分になれます)。/ものは考えようで、同じ渋滞でも、一般道だと車が多い上に信号待ちもあるし、右折車で車が詰まることもあります。それに比べればダラダラとでも動いているほうがましですし、電車だと座れないこともあるし、駅から歩かなければならないので、ずっと座っていられる車のほうが楽でしょう>
人間は悩む動物だという現実を率直に受け入れ、悩みを完全に解決するという幻想を捨てることだ。群れ重視、「私」重視という2つの方策を巧みに使い分けて、人生の負荷を極少化するしかない。評者の周辺の生き方上手の人は、確かにこういう選択をしている。 ★★★
(2024年9月19日脱稿)