トランプの逆襲?
「トランプ再熱狂の正体」体辻浩平著
バイデン撤退に次いで討論会でもハリス副大統領に劣勢。「ほぼトラ」が危うくなっても逆襲はあるか?
◇ ◇ ◇
「トランプ再熱狂の正体」体辻浩平著
NHK国際部の記者として2020年の大統領選を取材した著者。ワシントン在任中に政権はバイデンに移ったが、「国民の結束」を宣言しても分断は「解消されるどころか、改善の兆しすら見えない状態」という。一般市民にじかに取材した記者ならではの実感だろう。
21年3月にはネットで「トランプの就任式がおこなわれる」というフェイクニュースが流れ、空振り覚悟で取材に向かったところ、「アメリカを再び偉大に」の赤いキャップをかぶった数人の男女に遭遇。彼らは心底トランプの言う選挙不正を信じ、就任式がおこなわれなくとも考えを変えるつもりはまったくなかったそうだ。そんなエピソードを豊富にちりばめながら、アメリカの分断をこれでもかとばかりにルポする。
トランプが「選挙は盗まれた」を繰り返すうち、元ニューヨーク市長のような大物までもが投票の集計に使われた機械のメーカーを非難するなど、呆れた騒ぎは広がるばかりだ。
保守派メディアのFOXニュースも訴訟騒ぎの中で、ネトウヨばりの視聴者の支持を失うのが怖くてフェイク報道を続けたことが明らかになった。
「自由」の意味を履き違えた大国の末路はどうなるのか。
(新潮社 924円)
「アメリカの罠」ユヴァル・ノア・ハラリほか著 大野和基編
「アメリカの罠」ユヴァル・ノア・ハラリほか著 大野和基編
世界中の知識人でトランプを真顔で、本気で評価する人はどのぐらいいるだろうか。本書は欧米の知識人8人にインタビューし、アメリカの現状とトランプ政治の危険性についての深い分析や警告を収録している。
国際的な調査会社「ユーラシア・グループ」を設立した国際政治学者のイアン・ブレマーは、暴言と脅迫を連発するトランプが当選したら、日本に対して防衛費の増額と日本製自動車への高関税の脅しをかけてくるだろう、その日に「備えるべきだ」という。2016年の選挙後に真っ先に渡米し、トランプのご機嫌取りをした安倍元首相を「猛獣使い」とはやし立てる声もあったが、本書を読むとそのやり方はますますつけあがらせるばかりだと思える。
ほかにイスラエルの哲学者ユヴァル・ノア・ハラリ、ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマン、トランプの補佐官だった政治学者ジョン・ボルトンらへのインタビューが収められている。
(文藝春秋 990円)
「気をつけろ、トランプの復讐が始まる」宮家邦彦著
「気をつけろ、トランプの復讐が始まる」宮家邦彦著
ちかごろ目立つのが外務省出身の評論家やコメンテーター。著者も東大から外務省、中国やイラクの大使館勤務を経て企業シンクタンクへという典型的な経歴の持ち主だ。
国際情勢通を自負するだけに「もしトラ」や「ほぼトラ」など「競馬の予想屋じゃあるまいし」と口にするつもりはない、と断言。
しかし、「今回の選挙でトランプ氏が勝利しても、しなくても、米国内政の『トランプ現象』は今後も続くのではないか」という。
著者はトランプ外交を評価しない。「統治の実務にあまり関心を持たず、行政文書をしっかり読まず、他人のお話を聞かないまま、司法省、連邦議会、リベラルメディアとの対立をあおり続けた」とバッサリ。
しかし、「ビジネスを知っている」ことは長所という。対中戦略などは「意外に戦略的」。ただし、「ビジネスしか知らない」ため、外交手腕は低いとみている。「トランプを手なずけた」安倍元首相を評価し、保守派コメンテーターらしく締めくくっている。
(PHP研究所 1133円)