日本映画新世代
映画業界では日本映画が好調の支えとなっている。現場の労働条件は依然悪いままだが、若くて新しいセンスも確実に育っているようだ。
「恐るべき新世代映画監督たち」荒木重光著
「恐るべき新世代映画監督たち」荒木重光著
山中瑶子、奥山大史、空音央、内山拓也といっても、たいていの本紙読者は聞いたことがないだろう。実は全員が最近注目の若手監督。
山中は「ナミビアの砂漠」、奥山は「ぼくのお日さま」、空は「HAPPYEND」、内山は「若き見知らぬ者たち」がそれぞれの最新作。年齢は空が1991年生まれで4人の中では最年長。山中が97年生まれの最年少。つまり20代後半から30代前半で、いわゆるミレニアル世代というわけだ。
本書は彼らを一堂に集めた座談会のほか、それぞれの製作現場について深掘りした各人へのインタビューや出演者たちとのトークまで収録されている。
あらかじめ計画を立てていても現場では「わけのわからないものにばったり邂逅できるのが映画の良さ」という山中。ちなみに彼女の「ナミビアの砂漠」の主演はテレビドラマ「不適切にもほどがある!」でブレークした河合優実。そのインタビューも含まれるという手際のよさだ。
それぞれの言葉から男や父親という存在が希薄になり、そのぶん女の存在感が増えた現代ならではの空気感がうかがわれる。 (K&Bパブリッシャーズ 1650円)
「ハコウマに乗って」西川美和著
「ハコウマに乗って」西川美和著
団塊ジュニア世代の女性監督はだいぶ多くなったが、オリジナル脚本だけで映画製作を続けるのは難しい。日本の映画界ではマンガや小説の原作の映画化を依頼されて監督業を続けるのが一般的だ。
しかし、そんな“不可能”にあえて挑戦してきたのが著者。笑福亭鶴瓶がニセ医者を演じた「ディア・ドクター」や役所広司が社会の底辺に暮らす元ヤクザの受刑囚を演じた「すばらしき世界」などオリジナリティーあふれる作品で独自の世界を築いてきた。
その一方、本書を読むと文筆家としての腕のよさがよくわかる。中身は「スポーツグラフィックNumber」と「文藝春秋」に連載した毎回2000字程度のエッセー。広島出身で地元愛が強く、カープの大ファン。でも本当はそこに至るまでにいろいろあるらしい。「らしい」というのは、エッセーの行間やちょっとした言い回しから伝わってくる。
どれも短文なのに普通の起承転結とは違うドラマがある。小説も書いていて直木賞候補になったことも。あくまでマイペースを守り切る芯の強さと天性のユーモアは一読の価値あり。 (文藝春秋 1980円)
「他なる映画と1・2」濱口竜介著
「他なる映画と1.2」濱口竜介著
いまや是枝裕和に次ぐ日本映画界の牽引役と期待されるのが濱口竜介。村上春樹原作の「ドライブ・マイ・カー」はカンヌ映画祭で脚本賞ほかを受賞。アカデミー賞では国際長編映画賞を受賞し、国内外で一気に注目されたが、その後も着実に新作を製作。その一方で評論も多数執筆、映画の講義も数多い。
本書の1巻目は各地で行った映画講義。ほぼ演技経験のない一般人へ演技指導をしながら撮影した「ハッピーアワー」という作品もある著者ならではの講義が採録されている。
2巻目は映画評や評論などを集めたもの。大学に入った時は特に映画好きでもなく、難解な映画を見ると眠ってしまうのが普通だったという。それがいつ、どう変わったのか。
小さな声で独白するような独特の文体は読んでいてしだいに癖になる。 (インスクリプト 各2750円)