トランプのまさか?
「引き裂かれるアメリカ」及川順著
民主党ハリス候補と熾烈なデッドヒートを繰り広げるトランプ。まさかトランプの復権なんてあるのか?
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「引き裂かれるアメリカ」及川順著
ハリス対トランプの選挙戦で注目されるのが「中間層」の動向で、特に若年層の動きは気になる。ただでさえ政治意識が低いのが若者。その昔の反戦運動が盛んなころならまだしも、近年の政治の体たらくに飽き飽きしているのはアメリカの若者も同じだ。
NHKでアメリカ駐在経験を持つ著者はここに注目し、現地を取材する。本書では18歳で保守政治団体を立ち上げた若者による「ターニングポイントUSA」を最初に追う。多文化教育を進める公立学校に反発し、積極的な自宅学習を提唱するなど「家庭」と「道徳」を重視する保守派らしい戦術だろう。
しかし、運動は単に伝統的価値観の再興だけでなく、積極的に「分断」を仕掛ける攻撃的な面もある。すでに10年になるこの運動からは州議会の下院議員も生まれたという。また、メディア有名人の過激な保守派も多く、若者たちの保守活動をあおり立てる。こうした「分断」運動のルポが本書のほぼ半分を占める。
第2章以下ではこれに対抗する「反分断」や両者の衝突を回避しようとする試みなどにも目が向けられる。特定の視点にしぼったことで主題が際立つルポだ。
(集英社 1210円)
「ネクスト・クエスチョン?」ステファニー・グリシャム著 熊木信太郎訳
「ネクスト・クエスチョン?」ステファニー・グリシャム著 熊木信太郎訳
2021年1月、選挙での敗北を認めないトランプが群衆をあおって連邦議会議事堂を襲撃させた事件で、トランプ政権の要職を去った共和党員は多い。著者もそのひとり。ホワイトハウス報道官でメラニア夫人の補佐官という重要ポジションにいた著者は、襲撃事件で最初に辞任したことを誇りに思うという。そしていまや民主党大会で演壇に立ち、ハリスを支持すると明言したのだ。
本書によればトランプは一度でも自分と対立した人間には執念深く復讐心を抱き、かつての対立候補が政権入りに色気を示すと、じらしながらその気にさせて最後に屈辱を与えるのを得意としたという。ゲスな話には人一倍好奇心まんまんで、ある外国首相の母親が「ローリングストーンズの全員とヤったんだぜ」と大統領専用機の中で著者に吹聴したそうだ。
あきれるようなゴシップだらけで、事実上それしか書いてないというような本だが、それがかえってトランプという男の本質を示している。トランプには謎もなければホンネとタテマエのずれもない。謎はそんな男を信奉する連中が、なぜ一定数いるのかということだけだ。
(論創社 2640円)
「それでもなぜ、トランプは支持されるのか」会田弘継著
「それでもなぜ、トランプは支持されるのか」会田弘継著
共同通信の元論説委員長の著者。前のトランプ政権誕生の直後からアメリカの保守思想を歴史的に解説し、トランプの登場と結びつける独自の見方を披露してきた。
著者によれば、今日のトランプ現象は保守の共和党とリベラルの民主党という二大政党の対立から生まれたわけではないという。「左右の闘争ではなく上下の分断」、つまり格差社会のむごい現実から生まれたという意味で、トランプは原水爆が生んだゴジラに似ているというのだ。弱者の政党だった民主党はネオリベラルの党に変わってエリートだらけになった。
著者はこれまでの流れを歴史的に振り返り、アメリカ建国時代にその源流があるとしている。アメリカの思想の「地殻変動」という独自の歴史観を通して見る分断の根は深い。
(東洋経済新報社 2640円)