「生殖記」朝井リョウ著
「生殖記」朝井リョウ著
家電メーカー勤務の“オス個体”の達家尚成は、同僚の大輔と“2個体”で新宿の量販店を訪れた。尚成は自分で思い切った決断や判断をしなくても、大きな流れのようなものがすべてを収まるべきところに収めてくれると思っていて、大輔のように世話焼きで面倒見のいい個体を巧みに嗅ぎ分ける能力をもっている。
この日も大輔と体組成計を見にきたのだが、買いにきたわけではなく、「日曜日」を消化するために来たのだ。めったなことがないかぎり命を脅かされることもないし、労働もしなくていい尚成に残っているのは、やたらと発達した知能と思考だけだ。
女性の体を使わずに妊娠、出産ができる時代を舞台に、“拡大・発展・成長”を前提にした現代社会の価値観を揺さぶる。
(小学館 1870円)