「CROSSLOVE」小林伸一郎著
「CROSSLOVE」小林伸一郎著
国内の宗教施設を撮り下ろす「神々のエントランス」シリーズ第2弾。日本全国の神仏像を撮影した「大神仏」に続く本書のテーマは十字架だ。
信徒ではないが自身も十字架に対するあこがれが強いという著者が、日本全国にあふれるさまざまな十字架にレンズを向ける。
十字架といえば、誰もが思い浮かべるのが教会だろう。壁から天井まで白一色の室内にシンプルな祭壇とベンチと、装飾を排し必要最小限なもので構成された三島カトリック教会(静岡県)の壁には、十字架に磔刑されたキリスト像が掲げられる。
かと思えば、高名な建築家の設計によるものだろうか、光を巧みに取り入れ荘厳な空間を作り出すカトリック神戸中央教会(兵庫県)や、ヨーロッパの大聖堂を彷彿とさせるカトリック布池教会大聖堂(愛知県)、その対極にあるモダンな聖アンセルモ カトリック目黒教会(東京都)、祭壇を聖人たちの像が取り囲むカトリック甲府教会(山梨県)など。
教会にもそれぞれに個性があることがよく分かる。
デジタルアートのように照明によってドットの壁が出現する何とも近未来的な教会「鹿児島カテドラル ザビエル教会」(表紙=鹿児島)まである。
その中心に据えられた十字架も、シンプルなものから、キリストの磔刑像と組み合わされたもの、ステンドグラスで表現したもの、さらに十字架そのものを装飾したものなど実にさまざまだ。
教会らしからぬビルの屋上に掲げられた十字架(カトリック三河島教会=東京都)や、教会の屋根を貫く3本の棒に支えられたオブジェ然とした十字架(カトリック深谷教会=埼玉県)などもある。
信徒が眠るお墓に建てられた十字架にも注目。横浜外国人墓地には、ロシア正教などで用いられる横の棒が3本の「八端十字架」を墓標にする墓などもある。また、キリスト終焉の地と伝わる青森県の「キリストの墓」にもシンプルな十字架が立つ。
信徒にとっては崇敬の象徴である十字架は、商品でもある。アンティークショップに並んだ十字架や、雑貨店に並ぶ十字架を模したグッズ、さらに施設内に装飾として用いられた十字架やロードサイドのオブジェとして設けられた十字架まで、著者は聖俗を問わずさまざまな十字架にレンズを向ける。
中には、都庁の都民広場の両手を広げたブロンズ像を逆光でシルエットになるよう撮影して、十字架ではないのに十字架に見えるものまで。著者が「長い年月を経てキリスト教が布教に成功したのも、十字架というシンボルがあってこそだと思う」と記すように、世界一のアイコンである十字架は、もはやその形に近いというだけで、人々の敬虔な心を揺さぶるスイッチにまで昇華したようだ。
比較的信者が少ないといわれる日本にもこれほど浸透していることを知り、改めて十字架の持つパワーに驚かされる。
(東京キララ社 3300円)