「名古屋タイムスリップ」長坂英生編著
「名古屋タイムスリップ」長坂英生編著
日本3大都市のひとつ名古屋の今昔写真集。
古くは戦後間もなくの昭和20年代前半から昭和末期の60年代までに撮られた写真に、同じ視点からとらえた現在の姿を並べる。
冒頭に掲げられるのは昭和20年の空襲で焼失した名古屋城天守閣の再建直後の写真だ(昭和34年9月撮影)。現在は、歳月を経て貫禄が増した天守閣の手前に、伝統工法によって平成30年に復元された本丸御殿が鎮座する。
一番古い写真は、昭和24年1月に撮影された中区の「広小路通」だ。
その名の通り広々とした通りに車の姿は少なく、通りの真ん中には市電の軌道が埋め込まれており、上には市電用をはじめ多くの電線がクモの巣のように張り巡らされている。両脇にはビルもちらほらと立っているが、電線越しに見える空は広々としている。
通りに目を転じれば山高帽をかぶった男性や和装の女性、そしてリヤカーを引く人などもいる。
転じて現在の写真を見てみれば、道の両脇にはビルが立ち並び、古い写真で営業していた丸善や明治屋、丸栄ホテルなどの姿はもうない。
市電も廃止され、電線も地中化され、どこを探しても往時の片りんすら見つからない。
広小路通を別の視点で昭和32年10月に撮影した写真では、大和生命や東海銀行本店など、戦前からの重厚なビルが立ち並んでいる。その並びも現在は現代的なビルに一新されているが、旧東海銀行本店ビルだけは外観がそのまま残り、今は結婚式場として使われているという。
反対に外観は変わりながらも、同じ場所で商売を続けている店もある。
昭和37年11月、広小路通沿いの明治屋の南にあった人気飲食店が軒を連ねる栄銀座の写真に写る中華飯店「夜来香」がそれだ。路地の反対側は駐車場となり、路地の雰囲気や飲食店の顔触れは大きく変わっているが、店は今も元気に営業中だ。
昭和29年に完成した名古屋テレビ塔は、その役割を大きく変えながら今も健在。名古屋のシンボルにふさわしく、さまざまな写真に写り込んでいる。完成直前の昭和29年6月にテレビ塔から名古屋駅方面を見下ろした写真には、碁盤の目状に区画された街並みに木造建築がびっしりとひしめき、道路がやけに広く感じられる。
ほかにも名古屋を代表する「大須」(中区)をはじめ、円頓寺本町商店街(西区)などの各商店街や、全国有数の駄菓子問屋街「明道町」(西区)など、名古屋在住の人にはお馴染みの場所ばかり120余のスポットの今と昔が並ぶ。
中には、「不快指数」が80を超えるたびに、警察が交通事故注意を呼びかけるため交差点に設置した看板(今池交差点、昭和39年7月)など、当時の風俗を伝える写真もある。
名古屋の現在と過去を行き来しながら昭和時代をしのぶ「昭和100年」記念出版物。
(風媒社 2200円)