「対談集 ららら星のかなた」谷川俊太郎、伊藤比呂美 著/中央公論新社(選者:稲垣えみ子)
色気を失わず「老い」を生きるヒント満載
「対談集 ららら星のかなた」谷川俊太郎、伊藤比呂美 著
本との出会いは偶然の要素が大きく、書評欄はその偶然を成功に導くためのガイドなわけだが、ではその書評を書く人は一体どのように本と出会っているのか、当欄の筆者になってから今更ながら考え込むようになった。
というのは私、日常的には書評欄を参考に本を選ぶことが多いんですよ! 無論それは悪いことじゃないが、書評欄を読んで選んだ本を書評で紹介ってあまりに広がりがないわけで、故に当欄でご紹介するのはできるだけそうじゃない本を選びたく思うのだが、近所の本屋が次々潰れ店頭の出会いも困難。となると知人の推薦が有力ルートとなる。中でも頼りにしているのが我が姉だ。大いなる読書家で、面白かった本は次々貸してくれる。自分じゃ選ばぬ本を読めるので実にありがたい。
今回の本も姉の推薦である。90代の詩人に60代の詩人が突っ込む対談本。詩人とは予定調和から最も遠い人たちであるがゆえ、食べ物の話も幼少期の話も詩の話も恋愛の話もどれもこれもブッ飛んでいてトントンと面白い。
だが私が最も興味深く読んだのは「老い」の話である。
まえがきで、伊藤さんがこんなエピソードを紹介している。対談は東京の谷川邸で重ねられたのだが、ある盛夏の日、「谷川さんがタンクトップで出てこられた。目が眩みました。お宅を出た瞬間、有さん(注・ライター)とふたりで顔を見合わせ、『なんだったの、今のは!』と叫んだのを覚えています」。90の男のタンクトップ姿も想像していなかったし、その姿が「めっちゃ色気があった」からだ。
これがどれほどすんごいことか、88歳の父を持つ身にはよーくわかる。人は老いると萎む。水気がなくなり固まっていく。体だけじゃなく心もそう。同じ話ばかり繰り返し、他人に興味を持たなくなり、料理を振る舞っても無反応(プンプン)。でもそれには理由があって、谷川さん曰く「感覚ってものが鈍くなってくる」「全体的に退屈になってくる」。なるほど。谷川さんも我が父もそんな世界を生きているのだ。それ自体が偉大なる冒険かもしれない。そう思ったら父のあれこれが許せる気がしてきた。
で、なのに色気を失わない谷川さん。一体なぜ? ヒント満載。老いに怯える人必読。私は、最後に収められた谷川さんの詩の「今一番したいことは何ですか?」という問いへの答えに痺れました。泣けました。
★★★