エリート街道捨てた立川志の春に聞く「古典落語」の効能
古典落語の世界を知れば人生は楽になる
世知辛いご時世を笑い飛ばしたい人が多いのか。落語ブームがじわじわ拡大中だ。古典落語には肩肘張らない生き方の秘訣が詰まっている。その世界観を知れば知るほど、人生は楽になる。米国の名門、エール大を卒業後、三井物産に入社という絵に描いたようなエリート人生を投げ捨て、立川流に入門した気鋭の噺家・立川志の春(40)に、人生の力みが取れるヒントを聞いた。
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落語のルーツは、お坊さんの説教だとする説があります。退屈なだけの説教を聞く人は少ない。そこで笑いの要素を加え、興味を持ちやすくした。笑いを交えると、情報が頭にスーッと入ってきやすいですよね。だから、落語の演目って何かしらの教訓がある。大した教訓じゃあないんですけど。知ったかぶりはダメ、簡単に金儲けしようとすると、失敗するぞとか。最終目的は笑わせることではないんだと思います。
落語って最高の失敗談がたくさん詰まった芸能なんです。失敗談だからこそ教訓を得られる。他人の自慢話ほど退屈なものはないですもんね。古典落語の教えに通底するのは「弱さ」と「寛容さ」。人間の「弱さ」には愚かさも、ズルさも、セコさもある。それらを全部受け入れて、逆に完璧じゃないから人間は面白いと認める。
「あのバカ」というセリフも、落語の登場人物は決して上から目線で相手をけなそうとはしない。「オレもバカだけどさ」という優しさがありますね。この古典落語が持つ寛容さを、私の大師匠の立川談志は「人間の業の肯定」と表現しました。
米国で過ごした大学の4年間は真逆でした。自分がバカだと認めてしまうと、全てがオシマイ。とにかく実力主義、個人主義が徹底された社会で、大学にいたエリート層は子供の頃から、論理的思考で相手を説得し、ディベートに勝つことを叩き込まれていた。
常に「強さ」を競争し、「弱さ」を見せられない。だから、筋トレするやつ、めっちゃ多いですよ。マッチョ願望がすごい。見栄えの「強さ」も追求しているのでしょう。