玉三郎、猿之助、野田秀樹…演出家で見せる8月納涼歌舞伎
8月の歌舞伎座は「納涼歌舞伎」。いつもの月とは異なり、3部に分かれ、1部の舞踊を除けば、徳川時代の芝居はひとつもなく、明治、昭和、平成の作品で、役者もさることながら、それぞれの「演出家」を意識させる月となった。
第1部は長谷川伸の「刺青奇偶」。昭和7年初演で、六代目菊五郎と五代目福助が主演した。この2人のひ孫にあたる中村七之助が「お仲」を演じ、市川中車(香川照之)が「半太郎」。バクチ打ちと、身を持ち崩した酌婦が知り合い、数年後、2人は一緒に暮らしているが、女は重い病で長くはない――と、ストーリーは陳腐なのだが、坂東玉三郎による演出は、すべてが抑制的で、見る側の想像力を必要とする。往年のフランス映画のような雰囲気で、見ごたえがある。
第2部最初は岡本綺堂の「修禅寺物語」。坂東彌十郎演じる「夜叉王」が主人公のはずなのだが、脇役の市川猿之助演じる「桂」のほうが主人公になってしまう。猿之助の存在感の凄さを改めて感じた。
次が新作「歌舞伎座捕物帖」。バックステージものだが、歌舞伎座で役者の連続殺人事件が起き、犯人は誰かを、染五郎の弥次さんと、猿之助の喜多さんが解いていくミステリー劇でもある。2種類の結末が用意され、その日の観客の拍手でどちらにするか決める趣向。猿之助は演出も担い、ドタバタコメディーに仕上げた。これはこれで笑えて楽しいのだが、このストーリーならば、シリアスな芝居にしても面白いように思った。