役者と真剣勝負 「俺が正しいのか、おまえが正しいのか」
倉本 「波の盆」の時は制作サイドから「立ち会ってください」と言われたので、気持ちよく出られましたよね。でも、普通は「立ち会ってもいいですよ」なんて受け身に言われちゃう。出づらいですよね。
碓井 そもそもホン読みに立ち会うのはなぜですか。
倉本 シナリオっていうのは「寝てる」ものなんですよね。それを役者が「立ち上げ」てくれる。その立ち方が違うっていうのはストーリーを作った者だからこそ的確に指摘できる。それが、トンでもない立ち方をされても、現場にいないから分からないわけですね。それで僕はある時、若い俳優さんに「一言一句変えないでくれ」ってつい言っちゃったんですね。それが過大に広がっちゃって定説になってしまった。
碓井 業界内では、役者も演出家も「倉本脚本は一言一句変えてはならない」という不文律みたいになっています。
倉本 ええ。語尾を勝手に変えられてしまうと人格が変わってしまうんですよ。たとえば、高倉健さんに関するインタビューを僕が受けた際、「健さんはすてきな人ですよ。シャイなんだけれども、なんとかなんじゃないでしょうか」っていう答え方をしたとするでしょう。