「あの日の風を描く」愛野史香著
「あの日の風を描く」愛野史香著
稲葉真は京都にある美大の油画科の学生だが、現在、休学中である。そんなとき、従兄の稲葉凜太郎から、狩野探幽の血縁の平野雪香の描いた襖絵の復元模写制作の手伝いを頼まれた。1日仕事かと思ったら半年以上はかかるという。
真の父は古典模写制作者だったが、中国の石窟壁画調査中の事故で亡くなった。京楽造形芸術大学に行くと、父と一緒に模写事業をしたという人見奎教授が、父の一途な姿勢を見て、現代に生まれた幸福に気づかされたと言った。現代作家としての知名度がなく、模写で得られる幸福とは? 真は、父の人生は徒労に終わったと確信していたのだ。
創作の苦悩を描く青春小説。 (角川春樹事務所 1650円)